84 エルヴィ・ケーレス 十六歳
「……まさか、来ていただけるとは」
手入れの行き届いた落ち着いた庭園のガゼボでお茶をしながら、リーシャは目を大きく見開いて、そう呟いた。
彼女の黒い瞳には着飾った余所行きの私が映っている。
今、私はグラファン家に来ている。有言実行。
私を見てリーシャの両親も驚いていた。まさかリーシャを訪ねてくる人がいるとは思いもしなかったのだろう。「娘とお茶をしに来てくださったのは、エルヴィ様が初めてです」と喜んでいた。
リーシャの両親はとても礼儀正しく、優しそうだった。
「私の肌のことはもう耳にしましたか?」
「……ええ」
私はリーシャの言葉に小さく首を縦に振った。
「それでも、会いに来てくださったのですか」
「貴女の肌が石化しているからって会いに来ない理由にはならないでしょ」
「……不思議な方ですね」
リーシャはそう言って、目を細めて笑う。彼女は今日も口元を布で覆っているが、どんな顔をしているかは分かった。
「皆、私に近づきたがらないので」
「なにか害があるの?」
「いえ、なにも。ただ私の人生においては害です。こんな肌でなければ、婚約の話もきていたでしょうし」
私は何も言えなかった。
ダークグリーンのハイネックのレースドレスを着ているリーシャを見つめながら、彼女の性格について考えた。
卑屈にもならず、悲観的な表情を浮かべるわけでもない。……舞踏会で初めて彼女を見た時もそうだった。ピンと背筋を伸ばして堂々としていたその姿に惹かれた。だから、今こうして彼女に会いにきた。
リーシャはティーカップを布の中へと入れて口元に運ぶ。決して私に石化した肌を見せないその様子に、私は思わず「飲みづらくない?」と口にしてしまった。
彼女は一呼吸置いて、「慣れました」と小さく笑った。
「それに、エルヴィ様が折角会いに来てくださったんです。怖がらせたくありません」
「怖くないわよ」
私は即座にそう言い返した。
リーシャは「え」と目を丸くする。私は続けて言葉を発した。
石化した肌を見られることに対して慎重になるのは分かる。抵抗感もあるだろう。だから、私は無理強いしない。それほど、彼女は否定され続けて、怖がられてきたのだろう。
…………なんか、ムカついてきた。
悪意のある無知な発言って虫唾が走る。




