8 レグネル・ケーレス 十八歳
勇者試験に落ちた妹は思ったより落胆していなかった。
ヴィナスのところへ行って屋敷に帰って来たが、意外と元気そうだ。むしろ、やる気に満ち溢れているというか……。
早速、ケーレス家に仕えている騎士たちを呼んで剣稽古をしている。
俺は汗を額に滲ませながら剣を握る妹を屋敷の中から見下ろした。
幼い頃からずっと勇者になることを目指してきた妹。
エルヴィがまだ五歳の頃、ある日突然俺のところへと走ってきて目をキラキラさせながら、「私、ヒーローになるの!」と言ったのを今でも鮮明に思い出せる。
興奮気味の妹の頭を撫でながら、僕は特に理由を聞かずにいた。
エルはヒーローになるにはどうすべきか、と考えて、勇者試験を受けることに辿り着いた。
十六歳になると一度だけ受けることができる勇者試験。
ヴィナスの言う通り、この国での勇者は使い捨てだ。……もちろん、エルヴィもそれを知っていたはずだ。
それでも彼女は勇者になることをずっと諦めずに頑張ってきた。
「不思議な妹だ」
…………ヴィナスがずっと探していた女の子だったとはな。
俺はそんなことを思いながら、妹を見ていると、剣稽古中のエルヴィは俺に気付いた。
彼女は顔を上げて、二階にいる俺の方を見る。
口角を少し上げて俺に笑顔を向ける。……綺麗な女だ。泥まみれで汗臭い場所が似合わない。
ポニーテールにまとめた柔らかいオレンジ色の髪が風で靡く。また彼女は稽古相手と向き合い、剣を交わす。無駄のない洗練された動きだ。
……俺だって妹を守りたい。命を危険にさらすところへは行ってほしくない。
だから、ヴィナスに「お前の妹――エルヴィ・ケーレスを勇者試験で落とす」と言われた時は心底安心した。……まさか、婚約するとは想定外過ぎたが。
「はぁぁぁぁ、まさかあいつが婚約するとはなぁ」
妹に婚約を申し込んだということよりも、ヴィナスが婚約した方に驚いている。
あの男がまさか女と婚約するなんて…………。貴族の令嬢はみんな喉から手が出るほどヴィナスを一目見ようと社交界に出ているのに……。
それを我が妹エルは全く興味さなそうに「ヴィナスとの婚約が納得いかない」という理由で俺経由でヴィナスと会った。
大した女だよ、本当。
…………それにしても、今日は驚くことの連続だったな。
エルがヴィナスの姿を見て驚くことは予想出来ていたが、まさかヴィナスも驚いているとはな……。
惚れた女を見る目をしていた。長年ヴィナスと一緒にいるが、あんな顔の彼を初めて見た。
面白いものを見れた。
「お兄様ッ」
今日の出来事を振り返っていると考えていると、いつの間にか俺の隣にエルの姿があった。




