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感情のままに声を発してしまった。もう少し感情を落ち着けてから話すべきだった。
こういうのは迫力で押してはダメだ。ヴィナス相手だと冷静に話し合った方が良かったのかも……。あたりが強い女だと思われちゃう。
「あ、の……、ちょっと強く言いすぎました?」
今更ながら、恐る恐るそう聞いた。
ヴィナスは私の言葉を聞いて、すぐに表情を崩し笑みを浮かべた。
「いいや、最高だ」
なんという、破壊的スマイル。王族って、やっぱり格が違う。
私が強固な心臓を持っていなかったら、きっと心臓爆発して倒れてましたよ。
「怪我なんて格好悪いと思っていたけれど、エルヴィに心配されるなら怪我も悪くないね」
「しないでください、怪我なんて」
顔を綻ばせているヴィナスに対して私は強気でそう言った。
私たちはソファに向かい合って座り、お茶をしながら、他愛もない話をした。……訓練の話がほとんどだったけど。
カイル団長がどうとか、騎士たちが私に心を開いてくれつつあるとか、そんな話ばかり。……なんとも可愛らしくない話題だ。
だが、ヴィナスは楽しそうに私の話を聞いてくれる。
「エルヴィが他の男と仲良くしすぎると嫉妬しちゃうね」
「自分より弱い男性には興味がないので」
「ってことは、僕には興味があるってこと?」
「そういうことです」
私があっさりとそう返したので、ヴィナスは少し戸惑う。想像していた反応と違ったのだろう。
ヴィナスに興味を抱かない方が難しい。王子兼勇者なのだ。それだけで、興味しかない。
「……ヴィナス様、私とお手合わせ願います」
「はい?」
私が少し間を置いて発した言葉に、ヴィナスは眉間に眉を寄せた。
まだ一度もヴィナスと戦ったことはない。魔法も剣術もヴィナスはきっと私とは段違いに強い。改めて、この身にヴィナスの強さを刻んでおきたいと思った。
それと同時にカイル団長と戦った時の気持ちを思い出す。恐怖の裏側には興奮がある。心がワクワクするのだ。
それに、私はいつかヴィナスに勝とうとしているのだから、相手の実力を知る必要ある。足元にも及ばなのかもしれない。けど、それでもいい。
「僕にそんなことを言ってきた女の子は君が初めてだよ、エルヴィ。僕と戦いたいなんて」
「じゃあ」
「だけど、無理だ。僕は君に剣を向けることはできない。君相手なら、僕は降参だ」
私の言葉を遮り、ヴィナスはそう言った。私は露骨に口を尖らせて、不服そうな表情を浮かべた。
なんか複雑な感情になる。…………いや、それでもやっぱり私は王子と手合わせしたい。私の中でその気持ちが勝った。
「どうか、お願いです。一度だけでいい。私と勝負してくれませんか」
私はその場に立ち上がり、誠心誠意をもってヴィナスに対して頭を下げた。




