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……マゴリャス国に行ってみたい。
この国にいると、雪というものを経験することはない。本で雪という存在をしった。ミナジェス山脈を越えなければならないから、かなりの長旅になりそうだけど……。
ジェガナ国にとってマゴリャス国は友好国だ。レグート国と言う共通の敵がいる。……敵と言っていいのか分からないが、ジェガナ国にとってレグート国は懸念を抱く相手国。慎重に関係を築かなければならない。
そんなことを考えていると、廊下から激しい足音が聞こえてきた。
……え、猛獣が近づいてきてる? なんか怖いんだけど。
私が扉の方へと視線を向けた瞬間、突然バンっと音を立てて勢いよく扉が開いた。私はビクッと体を震わす。
「……ヴィナス様?」
髪を少し乱して、息を切らす爽やかな美形王子がそこにいた。彼の美しい紫色の瞳が私を捉える。
もしかして、私に会いに走ってきてくれた?
「エルヴィ」
彼は私を見るなり、嬉しそうに優雅に微笑んだ。
なんだか全てが眩しいな。彼の神々しい顔も、その表情も、そして私の名をそんな愛おしそうに呼んでくれる声までもキラキラしている。
本当に私たちと生きている世界戦が一緒なのかと疑うほどだ。
「僕に会いにきれくれたんだって?」
私はティーカップを近くのサイドテーブルに置いて、「はい」と丁寧にお辞儀をした。挨拶はきちんとしておく。
「待たせてごめんね。ちょっと厄介な案件があってね。早急に終わらせてきたよ」
「いえ。むしろ、私のためにわざわざありがとうございます。突然来たのに……」
無理やり仕事を終わらせて来てくれたのかと思うと、嬉しい反面、少しだけ申し訳ない気持ちになる。けれど、やっぱり嬉しいという気持ちが買っていた。
「こちらこそありがとう。君を見て、疲れが吹き飛んだ」
……ずるッ。そんな殺し文句をサラっと言えてしまうなんて。
自分の顔が少し熱くなるのが分かった。ヴィナスは前に垂れてきた髪を耳にかける。その所作で、私は彼の右手に包帯が巻かれていることに気付いた。
「お怪我を?」
「あ、ああ、これね。昨夜の魔物にね。少し油断してただけだよ。大丈夫」
ヴィナスは私の言葉に反応して、自分の右手へと視線を移しながらそう答えた。私は思わずヴィナスに近づき、彼の相貌を真っすぐ見て、声を出す。
「今度から私を呼んでください! いつどこへだって駆けつけます! 私だって役に立てるぐらいには強くなりました。前までの私とはもう違います!」
訓練場でかなり鍛えられた。勇者試験のために自分の精神力も身体能力もきっちりと鍛え上げれたと思い込んでいたが、それはとんだ自信過剰だった。訓練場ではさらに高みを目指すことができた。
魔物を倒せるぐらいの肝は据わった。後は、戦うだけ。
私の勢いにヴィナスは目を丸くしている。私は更に言葉を続けた。
「一人で戦わないで!」
私はそう叫んだ。ヴィナスは固まったままだった。少しの間、沈黙が生まれる。
…………しまった。




