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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「魔物が出た!?」

 朝から私は大きな声で叫んだ。

 家族で朝食をとっている最中、父が突然「そういえば昨日の夜中に魔物が出たらしい」などと口にしたのだ。

 私がぐっすり眠っている時に、魔物が出ているなんて……。

「あ、ああ。だが、もう退治は完了しているそうだ」

 父は私の声に驚きながらも、そう答えた。

 あ~~~!! ヴィナスだ!! 

 彼が向かったに違いない。一体どれだけの仕事量をこなしているのだろう。……超人だ。

「そんな形相でスープを飲まないの」

 母が私に注意をする。

 魔物が出て、ヴィナスが退治したのだと分かれば、こんな顔にもなる。私もヴィナスの役に立ちたいのに……。 

「ちょっと、ヴィナス様に会ってくる」

 私はそう言って、残りの朝ご飯を急いで食べる。母はそんな私を見ながら、口を開く。

「ヴィナス殿下、かなりお忙しいんじゃない?」

「忙しくても、きっと私になら会ってくれる」

「そんなの?」

 母はレグネルの方へと視線を向けた。レグネルは母の視線に戸惑いながらも話し始めた。

「俺に聞かれても……。まぁ、でもエルヴィが会いに来たのなら、無理にでも会うだろうな」

「……すごいわね、エルヴィ」

「すごいのはヴィナス様の方」

 私は母の言葉にそう返したのと同時に、朝ご飯を食べ終えた。そのままこの場を立ち去ろうとしたが、一つ言いたいことを思い出した。

「そうだわ、お母様。今度グラファン家に遊びに行くわ」

 行ってもいい? などと疑問形にしない。断定だ。「行く」以外の選択肢はない。

「グラファン家?」

 母が首を傾げる。父も「グラファン家かぁ」と呟く。私が「グラファン家」と口にしても二人の様子から、グラファン家に対して否定的な印象は抱いてなさそうだ。ただレグネルだけは違った。彼の表情が曇った。

 それを悟った瞬間「それじゃ」とだけ言って、この場を後にした。

 


 王宮に行く準備を終えて、馬車に乗ろうとした時にレグネルが屋敷から出てきた。いつもの穏やかな顔ではなかった。

「どういうつもりだ、エルヴィ」

 きっとグラファン家についてだ。

 どうしてレグネルはこんなにもグラファン家に対して警戒しているのだろう。

 レグネルはあんな馬鹿げた噂を信じるようなタイプではないし……。

 もしかして、何か恨みがあるとか? だとしても、何の?

 私は混乱しながらも「リーシャとお喋りしたいので」とだけ答える。レグネルの態度に私も強気に出る。

 レグネルは何も答えず、黙って私を睨んでいる。私は続けて言葉を足した。

「何か事情があるのなら、話してくれないと分かりません」

「…………彼女は一匹狼だ。別にわざわざ仲良くする必要はないだろう」

「なにその理由。……彼女がなりたくて一匹狼になったとでも? 望んで『呪われた子』と言われるようになったとでも?」

 私がそう詰め寄ると、レグネルは口を閉ざした。

 なんか変だ。絶対に変だ。レグネルは普段こういうことを言わない。リーシャに対して、どこか敏感だ。

 ……レグネルもあの社交界にいた人たちと一緒なの? ……いや、でも、なんかちょっと違う。

 私は思考がレグネルの態度に戸惑いながら、「もう行きます」と言ってレグネルに背を向けた。

「彼女は強い」

 レグネルは最後に私に向かって弱々しい声を発した。私は馬車の中に入る前に顔だけ少しレグネルの方に向けて口を開いた。

「強いからといって、傷つかないわけじゃない」

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