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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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 少し間を置いてから、リーシャは声を発した。

「……是非」

 彼女の黒い瞳が少しだけ和らいだ気がした。

 良かった~~、断られなくて。

 私は内心ホッとしながら、「貴方」とシャンパングラスを置いているトレーを持っている使用人を呼び止める。使用人は私の言葉に反応して、すぐに私の元へとやってきた。

「ありがとう」

 私はトレーからシャンパングラスを二つ手に取る。そして、片方をリーシャの方へと差し出した。リーシャは「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言って、私からシャンパングラスを受け取った。

 なぜか分からないが、誰もが私たちのその様子をじっと緊張した面持ちで見ていた。私はそんなことなど気にせずに「乾杯」とグラスを軽く上げて口へと運ぶ。

 リーシャは私がグラスに口をつけたのを確認してから、口元を隠している布の下にグラスを入れてシャンパンを飲む。

 ……そんなに口元を見せたくないのかしら。世界のどの国を見ても「口元を隠せ」なんていう法律はない。

「まさか彼女に話しかけるなんて……」

「いくら話す相手がいないからって、わざわざグラファン家の令嬢を選ばなくても……」

「彼女に近づくなんて」

 私とリーシャがシャンパンを飲むと、周りがざわざわとし始めて、会話が聞こえてきた。声を潜めているつもりだろうが、全部聞こえている。

 リーシャをそんなに遠ざける理由は何か私には今のところさっぱり分からない。

「エルヴィ!」

 この状況に不思議に思っていると、突然レグネルの声が耳に響いた。声がした方へと、反射的に視線を向ける。

 レグネルも少し驚いた表情で私たちの方を見ていた。彼の隣にいるルナも私たちを見て固まっている。

 ……どうしたっていうのよ。私、何かそんなにまずいことした?

 どうして皆がリーシャに対して良くない印象を持っているのかがさっぱり分からない。

「お兄様」

 私が返答すると、レグネルはすぐにいつも通りの表情に戻った。

「エルヴィ、ここにいたのか。探したよ」

 絶対嘘だ。

 レグネルは私の方へと近付き、柔らかな口調で話し始めた。

「久しぶりの社交界、疲れただろう。今日はもう帰ろう」

「私まだ疲れて」

「帰ろう」

 優しい口調だが、強い。

 私は言葉を遮られて、それ以上何も言えなかった。レグネルはリーシャへと視線を移し、口角を上げた。

「妹の相手をしてくれてありがとう」

「いえ。楽しいひと時でした」

 レグネルの社交スマイルにリーシャは丁寧にお辞儀をした。

 この非の打ち所がないお辞儀、やっぱり目を瞠る。

「では、これで失礼する」

 レグネルのその言葉と共に私もここを去ることになった。

 ルナは「あ」とレグネルに向かって何か言いたげだったが、そんな間もなく私たちは会場を後にした。

 レグネルに「どういうことだい、説明しな」と言いたかったが、諦めた。何も聞くなというオーラを放っている時のレグネルには何も聞かない方がいい。

 聞いたところで答えてくれない。それは妹の私が一番良く知っている。

 こうして、何が起こっているのか理解できないまま私は家に帰り、社交界での立ち居振る舞いという慣れないことをした疲労感に包まれたまま眠りについた。

 私の久しぶりの舞踏会は濃厚だった。

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