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少しすると、壁に一人で佇んでいる口元を透け感のある白い布で覆っている女性を見つけた。腰の長さほどある藍色の髪を頭の後ろで一つに三つ編みしている。光沢のあるサテンで仕上げられた青い上等のドレスがスラっとした高い身長に似合っている。
……綺麗な姿勢。
私が最初に彼女に抱いた印象はそれだった。
彼女の周りだけ人がいない。だけど、彼はそんなことを気にもせずに堂々と背筋を伸ばしてその場に立っていた。
この場所で一人でいる令嬢がいるなんて……。
大体の者たちがそれぞれグループで固まっている。一人でいるということは、社交界のコミュニティから外れているということでもある。
誰も寄せ付けないオーラを感じつつも、私は彼女の方へと近寄った。
「こんばんは」
私は彼女に微笑みかけた。その瞬間、私たちの周りにいた人たちがギョッとした目で私を見つめた。
……え、何? この空気。
空気がピンと張り詰めたような感覚だ。私がこの女性に話しかけたことによって、周囲の者たちの関心が一気に私へと向けられる。
この人に話しかけちゃいけないっていうルールなんかがあるわけ?
もし、そんなルールがあるのならば、胸元に「私には声を掛けてはダメです」って書かれた紙でも貼り付けておいてほしい。
私はそんなことを思いながら、女性の反応を待った。
女性は私が目の前に立っていることに対して、目を丸くしていたが、すぐに落ち着いた様子でドレスの裾を持ち上げて、優雅な所作で頭を垂れた。
……わぁ、美しいお辞儀。
私はその動きに感心していた。
「お初にお目にかかります、エルヴィ様。グラファン家のリーシャと申します」
その透き通った声に私は思わず「良い声」と小さく呟く。
グラファン家ということは……、第五貴族だ。
「顔を上げて、リーシャ」
私がそう言うと、彼女はゆっくりと頭を上げた。リーシャは私と目を合わさず、目線は下を向いていた。
この謎めいていて影のある雰囲気……! 素敵じゃない!
無意識に口元を緩めてしまう。
令嬢は全員敵だと思え、なんてレグネルに言われたけれど、一旦彼の忠告は忘れよう。
「私のことを知ってくれているなんて感激だわ」
「エルヴィ様は有名ですので」
リーシャは静かにそう答える。
「殿下の婚約者として? それとも勇者試験を受けた者として?」
「ケーレス家のご令嬢様として、です」
…………なかなかいい回答をしてくる。気に入ったわ。
「ねぇ、一緒に乾杯しない?」
私がそう言うと、また周りが驚愕したような表情を浮かべる。私がリーシャに声を掛けた空気感と一緒だ。
……さっきから、何? もしかして、アルコールが苦手とか?
だったら、そういうことは分かりやすいように額にでも書いていて。「アルコール、ダメ」って。
周りの雰囲気に流されて、困惑していられない。
「ダメ?」
私は何も答えないリーシャに対して、再度口を開いた。
いつも読んでくださってありがとうございます!




