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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ
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6 ヴィナス・ジェガナ 十八歳

「ヴィナス、あんまり妹をいじめるなよ」

 エルヴィが僕に戦いを申し込んで帰った後、レグネルはため息をつきながら僕にそう言った。

 エルヴィ・ケーレス。久しぶりに彼女に会ったが、とても美しい女性に育っていた。

 ……彼女が僕を見て驚いていたように、僕も彼女を見て驚いた。

 あの小さな泣き虫だった女の子がここまで大きくなったのかと。

 随分と女性的な身体になり、顔も大人びた朗らかだが雰囲気のある魅力的な女性になっていた。

 変わっていないところと言えば、芯のあるオレンジ色の瞳ぐらいか。

 あの容姿で勇者を志望しているなんて、とんでもないギャップだ。

「勇者試験の答案用紙を見た瞬間、この子だ、って思ったんだ。まさか、君の妹が僕の探していた少女だったとはね」

「俺と妹はあんまり似てないからな」

 レグネルとエルヴィを傍から見て兄妹だと思う人はまずいないだろう。

 恋人同士と認識されるに違いない。それぐらい二人は別のベクトルの美しさを持っている。

「エルヴィはどうやら僕と戦い続けてくれるそうだよ」

「嬉しそうだな」

「そりゃね。彼女、勝つまで僕と戦うつもりだろうから」

「可哀そうなエル。お前に敵う奴なんてこの世にいるわけないのに」

 遠い目をしながら妹を想うレグネルに僕はフフッと笑みをこぼす。

 もしかしたら、僕が負ける可能性もほんの少しだけあるかもしれない。そう思えるのが楽しい。

 試験結果を見たが、それほどまでに彼女の実力は素晴らしいものだった。勇者になるためにどれだけの努力をしてきたのか結果だけで垣間見れた。

「君の妹は『勇者とは何か?』になんて書いたと思う?」

 僕の質問にレグネルは少し考える。

「……困難に立ち向かう人?」

「全然違う」

「恐れを前にしてもなお、自分を奮い立たせることができる者」

「それも違う」

 僕は首を振る。

「一輪の花を守り抜ける者」

「そんな詩的な表現でもない」

「わっかんね~~!」

「兄なのにね」

 僕はニコッと彼の方を向いて、煽る。カチンと来たのか、レグネルは「くっそ~~」と呟いて、ぶつぶつと答えを模索し始める。

「英雄になることを諦めきれなかった者」

「……なんだそれ」

 レグネルは静かに僕の方へと視線を向けた。

「勇者試験というのはタチが悪くてね、試験会場にあちこち罠があるんだよ」

「……罠?」

「受験者と偽って、その人がどういう人間かを探ったりね」

「ああ、そのことね。本性を探るために色んな人間を送りこんでいるのは知ってたよ」

「流石レグネル」

「それで、エルはどうだったんだ?」

「非の打ち所がないぐらい完璧だったよ。受験者の中でも彼女は全てにおいて卓越していた。まるでエルヴィのために作られた舞台といっても過言ではなった。彼女を勇者にすることは満場一致だったよ」

「この世界で初めて女の勇者が誕生するのをお前は邪魔したのか」

 レグネルの声に怒りがこもっていた。彼が僕に嫌悪を向けるのは初めてだ。

「勇者というのは聞こえはいいけど、常に死と隣り合わせだ。勇者試験が年に一回あることの意味を考えろ。念に一回、十六歳の若者が命を落としているんだ。たまに一年以上生き延びる者もいるが、極稀なケースだ。名誉ある仕事だが、僕の惚れた女の子にさせるわけにはいかない」

 僕がそこまで言い終えると、レグネルは複雑な表情を浮かべていた。

 兄として妹の夢を応援したいが、それで妹を失うことになるのは嫌なのだろう。

「……だが、もう議会はエルの実力を知ってしまっただろ」

「議会だけなら、僕が抑え込める。王子という立場が初めて役に立ったよ」

 僕の笑みにレグネルは口を閉じる。

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