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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「……好きってなんなんですかね」

 私がそう言うと、驚いた顔でカイルは私を見る。

「そりゃお前、キスしたいとか、くっつきたいとか、もっと相手を知りたいって思ったしすることだろ」

「考えたことなかった……」

「あのヴィナス様の惚れられて、考えたことないって……他に好きな男でもいるのか?」

「いません!!」

 思わず声が大きくなってしまった。

 恋愛をしてきたことがない。「勇者になりたい!」の一心でここまできてしまった。

「カイル様はどうなんですか?」

「俺はずっと女房一筋さ」

 ……結婚しているんだ。

 今日初めて奥さんがいることを知った。このカイルの奥さんって一体どんな人なんだろう。 

 私の心の声を読み取ったのかカイルはニヤッと自慢げに笑った。

「綺麗な女だぞ」

「奥さんのどこを好きになったんですか?」

「俺を騎士団長でもなく赤鬼でもなく、一人の『男』にしてくれる」

 私はその言葉にカイルも私たちと変わらない人間なのだと実感した。

 誰からも恐れられる強さを持つこの人も家では普通の恋する男なのだ。私はそれがどこか嬉しかった。

「そんな目で俺を見るな」

 カイルは少し恥ずかしそうに私から目を逸らした。

 恋愛話を私とカイルがしていると知ったら、団員たちはみんな驚くだろう。

 私はふと周りを見渡した。騎士たちはみんな帰っており、訓練場にいるのは私とカイルだけだった。

「俺からしたら、ヴィナス様が恋をしている方が驚きだ」

「……そうなんですか?」

 私はヴィナスのことを詳しく知らない。自分視点以外のヴィナスはどんなふうに見えているのだろう。

「彼は聡明であり、剣の腕も魔法も最強で、冷血で、女になど全く興味がなく……、決して手の届くことのない神みたいな存在だった」

 神みたいな存在、というのは少しだけ分かるかもしれない。

 カイルは「だから」と話を続けた。

「驚いた。突然婚約したという情報が入り、しかもその女性にぞっこんらしい。……その相手がお前だ、エルヴィ」

 カイルはそう言って、真っ直ぐ私の方を見た。

 ヴィナスの想い人は私……。分かってはいたけれど、第三者からそう言われると、改めて実感してしまう。

 どうして私なの、とい疑問が更に強くなってしまう。

「ヴィナス様の愛した女がお前で良かった」

 私はその言葉が嬉しかった。

 あのヴィナス様の隣に並んでもいい、と言われているような気がした。私のことをカイルは認めてくれているのだと分かる。

「それに、ヴィナス様がエルヴィに惚れた理由も分かる」

「なんですか!?」

 私は食い気味にそう聞いた。

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