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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「……帰る家がないって寂しいわね」

 今日も厳しい訓練を終えて、私は訓練場の地面に仰向けになっていた。

 訓練のラストにいつもカイルと打ち合いをしている。……それがとんでもなくハードだ。

 けど、せずにはいられないぐらいカイルの剣術は見事なものだ。もちろん、今日も負けた。

 私は息を切らしながら、空を眺めていた。ソルの境遇を考える。

「なんだ? 帰る家がないのか?」

 私の視界に突然いかつい顔が現れる。「わ!!」と思わず声を上げてしまう。

「そんな驚くな」

「……す、すみません。少し考えごとをしていて」

 入団してから、カイルに対して敬語になった。郷に入っては郷に従え、だ。団長には敬意を払う。

 体を起こして、服についていた泥を軽く叩いた。

「今日はいつもより集中力が欠けていたが、何かあったのか?」

 流石騎士団長。今日も全力で訓練に挑んだつもりだったが、ちゃんと分かられている。 

「勇者ってどう思いますか?」

 私は率直な意見をカイルに聞いた。勇者落ちについて聞きたかったが、これほど強いカイルが「勇者」に対してどんな印象を抱いているのか気になった。

 彼はきっと勇者試験を受けなかった人だろう。

 カイルは私の質問に少し考え込んだ後、口を開いた。

「ヴィナス様よりも弱い奴。……まぁ、今はヴィナス様が勇者だけどな」

 私は彼の回答に顔を綻ばせた。確かにそういう認識で正しい。

「ヴィナス様は負け知らずですものね。……カイル様は負けたことがあるんですか?」

 この騎士団で圧倒的な力を持っているカイルが誰かに負けるところなど想像できない。

「俺のことを一発で倒した男がいる」

「……誰!?」

 思わずため口で勢いよく聞いてしまう。カイルはフッと笑みを浮かべて、静かに答えた。

「お前の恋人だよ」

「こいびと?」

「ヴィナス様だ」

 ヴィナス、という名が聞こえた瞬間、私の心が熱くなった。 カイルを一発で倒した相手がヴィナスであったことに胸が高鳴った。

 ああ、やっぱりどこでも貴方は最強なのですね。

「恋人じゃなくて、婚約者です」

「一緒だろ」

「違います」

「どう違うんだ?」

 カイルはからかっているのではなく、真剣にそう聞いている。私は戸惑いながらも答える。

「えっと、恋人って言うのはお互いを愛し合っていて……」

「ヴィナス様のこと好きじゃねえのか?」

「それは」

 言葉に詰まった。

 私はヴィナス様のことを尊敬しているし、彼について行きたいと思っている。

 けど、この感情が恋だとはっきり言うことができない。



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