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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ
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 静寂に包まれたまま、誰も口を開かない。

 全員が目を丸くして私を見つめているだけだった。恐怖で話せないのか、驚きで話せないのか、それとも、本当に話したくないのか。

 ……このままだと埒が明かない。

「誰も答えないなら、この場所を潰してもいいってことよね? ……『地面よ、割れ」

「魔物を退治しに行くのさ!!!」

 私がさらに魔法詠唱しようとした瞬間、誰かが叫んだ。

「魔物を退治に?」

 やっぱり、ヴィナスの言っていたことは正しかったようだ。

「ああ、そうさ」

「お、おい」

「このままだと俺らのしてきた努力が水の泡だ。話すしかねえだろ」

 叫んだ男が話を続けようとするともじゃもじゃの男が制しようとした。  

 あら、もじゃもじゃ。再び会えて嬉しいわ。 

 私は心の中で挨拶をして、男が話を続けるのを待った。

「……魔物退治は俺たち勇者を目指していた者たちにとっては大切な任務だ。……勇者にはなれなかったが、その志を捨てちゃいねえ。だから、騎士団や勇者たちよりも早く俺たちが魔物を退治するのさ。そしたら、国に認められるだろう? 王家が俺たちを正式に認めたら、これからも胸を張って活動していける。俺らは落ちこぼれなんかじゃねえんだ」

 勇者になれなかった悔しさは分かるけれど、彼らが来ても足手まといになるだけだ。……前の私みたいに。

 私は魔法を解いて、彼らを地面に落とした。瓶はガシャンと音を立てて割れて、テーブルや椅子もガタガタと地面に何とか立つ。

 勇者落ちの皆はフラフラしながらも着地をして、私に向かって叫ぶ。

「誰にももう馬鹿にされねえ! 絶対魔物を倒すぞ!!」

「実力で勝つんだ!!」

「お嬢ちゃんの力には敵わなかったが、俺達全員合わせれば勝てるはずだ!」

 私の魔法を解けない者たちが合わさったって、あの怪物には敵うはずがない。弱いものが集まっても弱いだけだ。

 私も少し前まで魔物退治がどれほどのものかを自覚していなかったから偉そうなことは言えないが、私はもう彼らとは違う。ここにはもう二度と足を運ばないだろう。

 ……騎士団やヴィナスの邪魔をする時に私は彼らと容赦なく戦おう。

 彼らが騒いでいる間に私はそっとこの場を離れようとした。私が怒ったことでさらに彼らの活力を刺激してしまった……。

 面倒なことに巻き込まれる前に、去らないと……。

「聞きたいことは聞き出せたか?」

 扉を開けようとした瞬間にソルが話しかけてきた。彼の方を振り向く。『燃えろ』と言い、彼は煙草に火をつけて、口にくわえる。

「貴方もここにいる人たちに加担するの?」

 私は質問を質問で返した。彼は煙草を手に持ち、フゥッと息を吐いてから「まさか」と笑う。

 その笑みはここに集まっている者たちを嘲笑するようだった。

「そういえば、前に私が説教した青年は?」

「あの日から姿を現さなくなった。……エルちゃんの言葉に痺れたんじゃねえかな」

「……どうかしら」

 私はそう言って、彼との話を無理やり終わらせた。「気を付けてな」と私を見送るソルにずっと抱いていた疑問を聞いた。

「…………貴方はどうしてこんな場所にいるのよ」

 私の言葉に彼は少しの間固まった後、切なそうに口の端を上げた。

「俺にはもう帰る家がないのさ」 

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