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…………なんて言ったの?
私は頭の中が真っ白になった。
今日はどれだけ驚かされるのだろう。今日の終わりにでも「全部嘘でした」と伝えてほしい。
「殿下が勇者?」
理解が追い付かなかった。
どうして、ヴィナス王子が勇者試験なんて受けているのよ。
「君の試験を見て、受けることを決意した」
私の表情を読み取ったのか、ヴィナスはそう答えた。
どういうこと? さっきから、彼は何を言ってるの?
「君を勇者にさせたくなかったから」
最後に彼はそう付け足した。
その衝撃的な言葉に私は固まって動けなくなった。声すら出ない。
ヴィナス王子をこの手で殴りたい。それなのに、体が全く動かない。ただただ、私はこの状況に絶望していた。
「もちろん、ちゃんと実力で受かったよ。ズルは一切してない」
「…………私を勇者にさせたくなかったから、試験を受けた?」
「そうだよ」
「私を婚約者にしたかったから?」
「ん~~、まぁ、そういうことになるね」
この男のそんな勝手な理由で、私は勇者試験に落ちたというの?
私はレグネルへと視線を向けた。レグネルは申し訳なさそうな表情を浮かべている。
やはり、この兄。絶対に知っていたじゃない。
「殿下が勇者を辞退すれば、私は合格になるのでしょうか?」
「ああ、そうだね。けど、僕は辞退しないよ」
「何故です?」
「君がほしいから」
…………そんな回答、あり?
「僕が勇者である限り、君は僕を追うだろう? だって、君は勇者になることよりも『勇者』の肩書をほしがっているんだから」
今度は別の感情が私の心を覆う。これは恥ずかしさでなく、紛れもなく怒りだった。
ヴィナス王子の煽りに腸が煮えくり返る。
私のことを何も知らないくせに、と心の中で叫びたくなった。けれど、ここで怒りに身を任せて言葉を発すれば負けだと思った。
「では私はヴィナス王子と戦い続けます」
「僕と?」
私の発言に今度はヴィナス王子が驚いた表情を浮かべる。
いつまでも彼のペースに引きずりこまれたままになんてならない。
「ええ。私が勝って、必ず勇者になります」
「そんなに僕の婚約者が嫌かい?」
「……私はどうやら勇者という肩書に執着しているようなので」
私はそう言って口角を上げて、笑みを作る。
へぇ、と彼は少し楽しそうに私を見る。少しずつだが、この顔を見慣れてきた。
「エルヴィ、君が負けることになるよ」
「さぁ、どうでしょう?」
「随分と余裕があるね」
「戦い続けていれば負けることなどないでしょう?」
私がそう言うと、ヴィナスは少し固まった後、声を出して笑った。
……この王子、こんな風に笑うんだ。
てか、ずるすぎでしょ、この顔でこの笑顔。鬼に金棒じゃない。




