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「ああ。なんならお説教もしたんじゃないのか?」
「どこのだ、れ…………、もしかして、あの勇者落ちの青年!?」
私は最近街で言い合った男のことを思い出した。あの人相の悪い男がケーキ屋の息子?
ケーキ屋の雰囲気が微塵も感じられなかった。
「というか、どうしてその話をお兄様が知ってるのよ……」
「僕の大切な友人が教えてくれたのさ」
「……お兄様の交友関係どうなってるの」
私は訝し気にレグネルを見る。
「ソル、という手の甲に蝶のタトゥーが入った男に会っただろう?」
ソル、蝶のタトゥー……、あ! あの渋い人!!
「思い出した!」と私は手をポンッと打つ。
「奴が教えてくれたんだ」
「どういう繋がりなんですか」
「彼は元貴族だからね」
元とは……? 私は理解出来ずに首を傾げた。
「第一貴族ゴルドナ家のご子息様さ」
「…………第一貴族のご子息。…………あの、人が? ……うっしょでしょ」
確かに年の割にはかなり落ち着いていたし、独特な魅力を醸し出していた。……けど、まさか元貴族だとは思いもしなかった。
「ほっんとう」
レグネルは私の反応を面白そうに見つめながらそう言った。
理解が追い付かない。やっぱりケーキがもっと必要だ。
「あの蝶のタトゥーはゴルドナ家の破門の印だよ」
「……どうして破門に?」
「勇者は別に貴族の中では名誉なことではない。……勇者落ち集会に行ったエルなら分かるだろう? 受験者の九割が平民だ。何者かになろうと必死なんだよ。ゴルドナ家は厳格な家でね、勇者試験を受けることも許さなかったのに、ましてやソルは落ちた。家名に泥を塗ったと言われて勘当さ」
私は何も言葉が出てこなかった。
勇者を目指していた自分が前と変わらずに過ごせているこの状態が特殊なのだと思い知らされる。
「エルは社交界に全く興味がなかったから知らなかったかもだけど、有名な話だ。ゴルドナ家に招かれることがあってもソルの話は禁止。いなかったことにされているからな」
「それはちょっと酷すぎない!?」
「そういうものさ、この貴族社会は」
そう言ったレグネルの声は酷く冷たく、私は固まってしまった。
ソル・ゴルドナについて私が知らなかった理由は、完全に彼の話をタブーだとされており、誰も話題にしなかったから耳に入ってこなかったのだろう。
……やっぱり、社交界には情報を入手するためにも出ておいた方がいいのかもしれない。
私はそんなことを思いながら、貴族界の恐ろしさを改めて知った。




