表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/142

45

 初めてエルヴィが訓練場に来た時、誰もが彼女を見誤っていた。

 戦いを知らぬ令嬢があの無敵と言われたカイルと対戦するなど、何を馬鹿なことを、と彼女を軽蔑する目で見ていた。すぐに泣いて帰ると思っただろう。

 だが、そのカイルの攻撃をかわし、立ち向かったのだ。 

 目を逸らせぬ展開に、ただただ釘付けになるしかなかった。

 あの姿を見た瞬間から、騎士たちは彼女を認めざるをえなかったに違いない。入団を拒否することなど彼らにはできるはずがない。

 だが、問題はカイルだ。

 彼が「イエス」と言わない限り、何も進まない。男性社会に令嬢を放り込むなどカイルが許すはずがない。

 前時代的だが、彼なりの秩序を保つ方法でもあったのだろう。

「この野郎ッ!」

 カイルにとっての渾身の一撃だ。エルヴィが死ぬ! そう思った瞬間だった。

『風よ、踊れ』

 エルヴィの透き通った声がその場に響いた。魔法言語だ。

 突然の強い風がその場に巻き起こり、カイルが動きが鈍る。ここでまさか魔法を使うとは……。

 風で身動きをとれなくなっているカイルに容赦なくエルヴィは剣の先を彼の首元にあてた。

 なんてせこい勝ち方だ。

 僕は思わず笑ってしまった。最後にこんな風に形勢逆転させるとは! 見事だ!

 てっきり最後まで剣だけで戦うものかと思っていた。見事に騙されたよ。本気の戦いだ。相手を欺くのは必要なことだ。それに、カイルもエルヴィが魔法を使えることは知っていたはずだ。

 だけど、まさか、カイルも彼女が魔法を使うとは思いもしなかっただろう。

 カイルは目をぱちくりさせてエルヴィを見ている。エルヴィは肩を揺らしながら苦しそうに息をしている。なんとか呼吸を整えながら、口を開いた。

「……私の目的は勝つことだもの。……卑怯な手を使ってでも勝ちたかった」

 エルヴィのその言葉に少し沈黙が流れ、急にカイルはガハハハッと声を出して豪快に笑った。心からの笑いだった。

「エルヴィ」

 彼はエルヴィの名を丁寧に呼んだ。 

 カイルがこんな風に笑うのも、誰かの名を呼ぶのも非常に珍しい。

「正解だ」

 そう言って、カイルは手を差し出した。

 ああ、なんという瞬間だ。あのカイルがエルヴィを認めたのだ。

 エルヴィがカイルの手を握る。力強く握られたその手を見て、興奮を抑えるのに必死だった。

「お前を俺の騎士団に迎え入れよう」

 その言葉が静かに訓練場に響く。

 初めて女性が入団した。しかも、その異例をあの赤鬼と恐れられているカイルが許したのだ。

 エルヴィはカイルの手を離し、一歩退き、美しくお辞儀をした。

 暗闇の中で月光に照らされたエルヴィの姿は息を呑むほど神秘的だった。彼女の珍しいオレンジ色の瞳が太陽のような輝きを持っていた。

 なんということだ、彼女だ。

 僕は確信した。目の前にいる僕の婚約者が伝説の少女だということを……。

「過ぎ去りし時代への愛着を絶ち、太陽の瞳を持つ少女が闇夜で輝く日が来るだろう」

 エルヴィを見つめながら、あの言い伝えを口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ