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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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44 ヴィナス・ジェガナ 十八歳

 騎士たちを帰らせた後、僕はエルヴィとカイルの戦いを見守っていた。

 ……彼女が吹き飛ばされた瞬間、今すぐにでも助けに行きたかった。もうこれ以上戦うな、と止めたかった。 

 だが、そんなことをしたらエルヴィは僕を嫌うだろう。

 彼女がまた立ち上がった瞬間、カイルは慄いた。あの赤鬼が恐怖の表情を僅かに浮かべたのだ。カイル動揺、僕も震えた。

「ヴィナス様はとても強いお方です。……私を守る強さだけでなく、この国の民を守れる強さがある」

「知っている」

「けれど、ヴィナス様のことは誰が守るんですか? ……私はヴィナス様と共に戦いたい。ヴィナス様を守れるほどの強さを手に入れたい!!」

 強い意志でそう言い切ったエルヴィに僕もカイルも固まった。瞬きすらも忘れて、彼女を見つめていた。

 …………ああ、エルヴィ、君はいつだって僕の心を大きく揺さぶる。

 守る、と言われたのは人生で二度だけだ。今の君と、そして、昔の君。

 この僕を守りたいと言ってくれる君の強さが輝いて見える。君ほど魅力的な女性を僕は他に知らない。

「あの王子様を守るのは勇者になるよりも難しいことだぞ」

「……だけど、難しいという理由が諦める理由になんてならない」

 エルヴィの静かな声に僕を守ることを決めた覚悟を感じた。

 言葉でなく行動で示してくれる。

「もう戦いたくないという考えが過っても、私の信念がそれを許してくれない。私は負けない強さをずっと追い求めているのよ!」

 彼女はそう言って、一歩踏み出していた。またカイルに挑んでいた。

 ……とんでもない体力だ。…………いや、精神力かもしれない。

 彼女はどんどんと攻撃をし続ける。その覇気とスピードにカイルが少し怯んでいる。

 ……………嘘だろ。こんなことがあり得るのか。

 僕は前のめりになって二人の戦いに集中した。自分の目を疑った。

 ここに来て、彼女が殻を破るとは…………。

 これほど興奮する勝負を見ることはもうないのではないかと思う。それぐらいエルヴィの動きはなめらかで圧倒的だった。

 覚醒したエルヴィにカイルが「クッソ」と構えを変えた。

 あの無敵のカイルが…………。エルヴィとの戦いに本気になっているということだ。

「力の差っていうものを見せてやる!」

 カイルが口角を上げて、エルヴィにどんどん攻撃をしていく。彼の一振り一振りが重くて速いせいか、エルヴィが体勢を崩してしまう。

 だが、彼女は見事な身のこなしで上手く避けていく。防御よりも避ける方が体力は使わない。……だからといって、そう簡単にカイルの攻撃を避けれるものではない。これは彼女の素晴らしい動体視力と身体能力があるからこそできる技だ。

 ……このままだとどっちかの体力切れで勝負が尽きそうだ。だが、彼女の意志の強い瞳が「勝つ」と言っていた。

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