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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「今日も来たのか、あのお嬢は……」

「いいじゃないですか。訓練場が一気に華やかに」

「訓練場に華なんていらねえんだよ。さっさと体を動かしてこい」

「は、はい!!」

 私は今日も訓練場へと足を運ぶ。

 荒々しい会話をしているカイルの元へと向かい、「おはようございます」と笑顔で挨拶をする。もちろん、カイルは無視。

 私がヴィナス王子の婚約者だってことや、貴族の令嬢である、ということを一切配慮しない。

 というか、この訓練場では配慮しなくても許される、ということになっているようだ。

 ……ヴィナスが言ったことが嘘のように思えてきた。

 私、絶対嫌われてるだろ……。じゃないと、こんな態度とらないだろ。挨拶の一つぐらい返してくれたっていいのに!!

 私は笑顔を作りながら、心の中で舌を出しながら怒りの言葉を叫ぶ。

「早くするぞ」

 カイルはそれだけ言って、剣を私の方へと構えた。スゥっと息を吐き、心を落ち着かせて、私も彼に剣を構える。

 この瞬間、周りの騎士たちの動きが止まり、私たちへと視線が注がれる。

「勝負が分かりきっていても見ちゃうんだよな」

「もしかしたら……ってか?」

「いや、この空気感だよ。あそこだけまじの戦場なんだよな」

「急に重圧がかかってくるから、彼らを見らずにはいられないんだよな」

 騎士たちの会話が聞こえてくる中、カイルが「今日はお前がぶっ倒れるまで相手してやる」とにやりと歯を見せて笑った。

 私は「最高」と笑い返して、動き始めた。

 彼への攻撃の受け方を少しずつ覚えた。負担を最小限に受け流し、新たな攻撃をしかける。この短期間で確実に成長はしている……と思う。

 けれど、私の攻撃が当たることは一切ない。彼は私を殺すであろう寸前で攻撃を止める。

 たまに、首が少し切れて血が出ちゃうときもあるけど。……えへッ。

 彼が寸前止めるまでは、いつも本気で「殺される」と全神経で実感する。それほどの殺気と勢いに最初は腰が抜けそうになっていた。

 ……むしろ、よく腰が抜けなかったと思う。

「動きが遅すぎる」

 そう言って、彼は私に止めを刺しに来る。私は体勢を崩し、その場に背中をついて倒れ込む。起き上がる間もなく、彼は私の顔に剣の先を突きつける。

 ………………こっっっわ。

 いくら体験しても、いつも冷や汗が止まらない。

「お前の負けだ」

 彼はそう言って、私の前から剣をどける。起き上がりながら、剣を握り直し「もう一度」と私は剣を構えた。

「ああ」

 彼は短くそう言って、私たちは打ち合いを再度始めた。

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