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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「何をしている」

 ……ヴィナスの声、全く違う。

 私はこれ以上彼の元へと近づけなかった。カイルは男性から手を離し、ヴィナスの方へと身体を向ける。

 男性はゴホゴホと苦しそうに席をしながら、その場に崩れる。

「こいつが馬鹿なことをしていたので、少し罰を与えようと」

「何をしてどんな罰を与えていたのだ?」

 このヴィナスの圧に全く動じないカイルに私は驚いた。どんな精神力なのよ……。

 訓練場にいる誰もがヴィナスとカイルが醸し出す空気に緊張している。

「先日の魔物退治が初の任務だったらしく、それがトラウマになったようで……。『騎士を辞める』とほざいていたので、そんな脆い覚悟で入団したのかと叱っていたところです」

 ……あの時にいたんだ。

 私はゆっくりと地面に崩れこんだ男性へと視線を向けた。

 あれがトラウマになるのはよく理解できる。日々、厳しい訓練に耐えて、任務を与えられて、現場に行くと…………、あれだもの。

 立ち向かいようのない力で仲間が殺されている容赦のなさに怖気ずくのは分かる。 

「やめさせろ」

 ヴィナスの言葉にカイルの眉がピクリと動いた。

「そんな簡単にやめさせるのですか? 他の者に示しがつきません」

「だからといって、見せしめにするようなことでもないだろう」

「魔物と対峙して恐怖で震え上がったからという理由でやめさせてしまうのですか? そんなぬるい規律だと士気が下がります。それに、ただでさえ近頃、魔物の出現が増えて人員不足だというのに!」

 段々と声を荒げていくカイルに私はヴィナスは黙った。カイルの視線が先ほど彼が胸倉を掴んでいた男性へと移る。

「おい、お前。そんなにやめたいのなら代わりのやつを連れてこい」

「か、代わりって……」

「魔物退治に行ける者を連れてこいといっているのだ」

 おどおどする騎士に向かって、カイルは厳しい口調でそう言った。

 そんなの無理に決まって…………、あ!! 私がいるじゃない!!

 私はハッと頭の中で閃き、目を輝かせる。ヴィナスはカイルに対して面倒くさそうな表情を浮かべている。

「自分が抜けた穴を埋める人材を見つけてくるぐらいのことはしろ。……まぁ、お前がいなくなっても戦力は変わらんがな」

 なにこの意地悪な団長……!

 強いかなんだか知らないけど、人として上に立つべき者の発言じゃない。

「勇者落ちからいくらでもスカウトしてこい」

 ヴィナスの言葉に私はその手があるのかと納得してしまった。

 だが、あの者たちは「勇者」になりたいのであって、騎士になりたいわけではない。だから、彼らが騎士団に流れてくることはまずない。

 それに、騎士の者たちも「勇者落ち」を馬鹿にしている。というか一線を画している。まさに犬猿の中。

「あいつらが入れば、むしろ戦力は落ちますよ。勇者試験なんてクソみたいな制度は廃止した方が良いです」

 おおおお、なかなか言うな。命知らずか。

 いや、彼ほど強い人間だと王家に対しても言い放題なのか……?

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