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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「女みたい、とは?」

 私はレグネルの言葉に首を傾げる。

 女々しいって解釈でいい? か弱い泣き虫王子ってこと? ひょろくて私よりも華奢とか?

 私の脳内で勝手にヴィナス王子の印象が広がっていく。

「女性の美しさを最も表現する言葉ヴィーナスという名から名付けられたヴィナス。あまりに綺麗で整った顔立ちに男から『そういう目』で見られるほどだ。その美しさにお前も息を呑むぞ」

「へぇ、それは楽しみ」

 私は気のない返事をする。

 ヴィナスの容姿がどうだって私はいい。彼に興味を持っていない。

 私がここに来た理由はただ一つ。突然の婚約について問いただすためだ。あわよくば、婚約破棄したい。

 ……相手が王族だから無理だろうけど。

「ヴィーナスね……」

 私はそう呟きながら、窓の外の中庭へと視線を向けた。

 ……………………………………ヴィーナスだ。

 中庭に植えられている手入れされた木々や花に囲まれた中、ベンチで人が眠っているのが目に入った。

 まるで彫刻だ。……生きた人間とは思えない。絵本の中から飛び出してきたような人間離れした美しさだ。

 私は立ち止り、がっつりと「彼」を見つめた。

 最初目に入った瞬間、女性だと思った。艶やかで柔らかな金髪は胸元ぐらいまであり、目を瞑っているが、睫毛が長いことはこの距離からでも分かる。

 体格は男性だ……。細身だが、しっかりと鍛えている。

 私も鍛えている人間だから、よく分かる。あれはかなり剣を握っている手だ。その手に今にも落ちそうな本が握られている。

「たしかにこれは息を呑むわ」

 ベンチの上で寝ころんでいる彼を見ながら私はそう呟いた。

「お、ああ! あいつ、あそこにいたのか」

 レグネルは王子を見慣れているのか、扉を開けて、なんの躊躇いもなく彼の元へと向かう。

 ……レグネル、王宮の扉を勝手に開けてまたぐな。

 私は心の中で彼に注意しながら、ジッと王子を見つめていた。彼から目が離せなかった。

 レグネルは見慣れているから、あんな容赦なく王子の眠りを邪魔できるのだろうけれど、私はもっと彼の寝顔を眺めていたかった。

「こんな綺麗な人が実在するのね」

「……ヴィナス様は本当にお美しい方です」

 私の呟きに、ここまで案内してくれていた執事が口を開く。その落ち着いた声に私はつい会話を続けてしまう。

「どうして私なんかが婚約者に選ばれたの……」

「エルヴィ様はとても魅力的なお方です。その美貌はもちろんのこと、その聡明さと行動力、素晴らしいでございます」

 ……流石王家の執事。私のことを調べ上げているのね。社交辞令だったとしても、嬉しい。

「ヴィナス、起きろ。妹が来たぞ」

 レグネルはヴィナスの手から落ちそうな本を取り、その本で彼の額を軽く叩きながら起こす。

 もう、いっそのこと不敬罪で首をはねられてくれ。

「そんな目で見ないであげてください。ヴィナス様とレグネル様は昔からとても仲がよろしく、こちら側も微笑ましい気持ちになります」

 執事が言うのだから間違いないのだろう。

「いもうと?」

 たった今目覚めた王子様は目をゆっくりと私の方へと向けた。

 吸い込まれそうな魅惑的な紫色の瞳が私を捉えた。

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