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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「エルヴィ、君は『勇者落ち』なんていうくだらない集会に行ったそうだね」

 うわぁ、棘あるぅ。

 勇者落ちの集会に行った次の日に王宮に呼び出された。この前とはまた違う華やかな広大の庭園の一角の休憩場でヴィナスとお茶している。

 今日も相変わらず眩しいぐらいの美形だなぁ、と思いながら彼を見つめる。

 ……コンディション悪い日なんてあるのか、この人に。

「よくご存じですね」

 私はティーカップを口にあてて、香りの良いカモミールティーを喉に流し込む。

 …………王族だから、婚約者の私の行動を把握していても不思議ではない。

 中で何があったのかまで知られているのかな。

 私はチラッとヴィナス王子の方を見る。紫色の瞳と目が合う。彼は私ににこやかに口角を上げた。

「楽しかったかい?」

「…………それほど。ただ、勇者落ちの集会がどういうものなのか確かめたくて」

「何をしている場所だった?」

「それが結局分かりませんでした」

 足を運んだのに収穫がないなんて、嫌な報告すぎる。……というか、そもそも集会が目的で街に出たわけじゃない。

 どうしてこんな尋問みたいな感じになっているんだ。

「君より格下の者ばかりだったでしょ」

 やっぱり棘あるぅ。

「色んな方々がいました」

 私は直接的な表現を下げる。

 ソルという人物はあの中でもかなりレベルが高いと思う。それに、私と同い年の青年も最後に見せたあの殺気……、潜在能力は秘めているというところかしら。

「あの殿下」

「ヴィナス」

 ヴィナスは私が話始めるのを遮るようにして自分の名前を自分で呼んだ。

「婚約者なんだから、名前で呼んで」

 …………改めてそう言われると緊張してしまう。

 婚約者なのだと改めて実感する。本当に私はヴィナスと結婚するのだろうか……。王妃教育も受けていない。

 両親もまさか私がヴィナスと結婚するなんて思ってもみなかっただろう。

 それなのに、私に王妃教育を始めさせないのはなんでだ!?

 そうよ、今頃気付いたけど、両親は私に何も言ってこない。ただ「婚約おめでとう」だけだった。

「エルヴィ」

 私の呼ぶ澄んだ声でハッと我に返る。

「他のことを考える前に、僕のことを名前で呼んで」

「ヴィナス様」

 私はあっさりと彼の名を呼んだ。

 そんなことよりも王妃教育について聞きたかった。本当は勇者落ちについて知っているのなら、聞こうとしていたが、王妃教育の方が私の人生を大きく変える出来事だ。

「なんだい、エルヴィ」

 ……どうして。

 名を呼ばれて、とても幸せそうに笑い、私を愛おしそうに見つめ、嬉しそうな声を出すヴィナスに思わず固まってしまった。

 ヴィナス様、と言った時は心がこもっていなかった。それにヴィナスは気付いているはずだ。

 それなのに、そんな表情をしてくれるの……。

 つまらない呼び方だ、と言って舌打ちでもされるのかと思っていた。……それは思い過ぎか。

「ただ名前を呼んだだけで……」

「君に名を呼ばれるのが僕はただただ嬉しいんだよ」

「……変な王子様」

 じっと見つめられる甘い視線に耐えれなくなり、私は思わず目を逸らしてしまった。

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