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けど、残念。私の方が格上よ。
私はそう心の中で呟き、視線だけで彼に圧を彼にかける。青年の表情が一瞬怯む。
「なんて殺気を放ってんだよ……」
「背中越しでも震え上がるこの殺気、……正面から受けているあいつ大丈夫かよ」
「こんなの……、令嬢の威厳じゃねえだろ」
私は周りの声を無視して、口を開く。
「生きにくいにきまってるでしょ」
さっきよりも数段低い私の声に青年は「え」と口を開く。
「貴族の世界で『勇者』を目指す者なんていない。みんななりたくないのよ。悠々自適の暮らしを一生している方がいいもの」
そう、私も勇者というものが使い捨てだと分かったときは夢を諦めたくなった。けど……、夢が私を手放さなかった。
「ましてや私は令嬢。誰もが白い目で私を見たわ。『君ならできる!』なんて言葉もらったことなんてないわよ。……おかげで友達は一人もいない。今では家族は私の味方だけど、最初は違った。勇者試験を受けると言えば猛反対。まぁ、当たり前よね。私は貴族の世界で悪目立ちをしてしまえば生きていけないもの。……誰からも支えてもらえなかったことがなに? ああ、可哀想な子って哀れんでほしいの? よくここまで耐えてきたねって慰めてほしいの? あなたほど強い人はいないって褒めてほしいの?」
「…………ちがう、そんなんじゃない」
「じゃあ、なに?」
私は詰めるようにして彼に聞く。
「俺はただ……」
「ただ、なに?」
「…………認めてほしかったんだ」
「甘ったれんなっ!!」
私は気付けば、青年に向かって怒鳴っていた。この場に綺麗に私の声が響く。
「誰に認めてほしかったか分からないけど、甘ったれないで。態度と行動で示しなさい! 成長と結果は後からついてくる。次第に野次を飛ばしてくる者は黙り、周りは自然と認めざるをえなくなる。実力はあなたの味方になる」
私がそう言い終えると、青年は下唇を噛みながら小さく呟いた。
「…………そんなの分かってるさ」
家族が私に寄り添ってくれたのは、私が孤独の中で戦い抜いた証拠だ。
「それとね、苦労の知らない人間なんているわけないわよ」
私は最後にそう付け加えると、さっきのソルたちがいた方へと振り返る。
思ったより、事を荒立ててしまった。落ち着いた声で私は「ローズ」と侍女の名を呼ぶ。彼女は私の迫力に驚いて固まっているローズに「帰るよ」と伝える。
「は、はい」
私は扉の方まで足を進める。私の行動をこの場にいた全員が静かに見ていた。
コツコツッとヒールの音だけが聞こえる。
扉の前に立ち、最後にこの場にいるみんなの方を向いて、丁寧にお辞儀をした。
「ここで何をしているのか、また聞きにきますね」
ローズが扉を開け、私は階段を降りた。バタンッと扉の音が閉まる音が聞こえる。普段なら絶対に何か話しかけてくるローズが何も言わずに後ろをついてきた。
私は心の中で小さくため息をついた。
……もっと穏やかに街を楽しむはずだったのに。




