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「まぁまぁ」
馬車の中で鼻息を荒くしてイライラしている私をレグネルなだめる。
……馬みたいな扱いされてるな、私。
「ヴィナスも何か考えがあるのだろう」
ヴィナス王子と兄は親しくしているため、兄は彼のことを「殿下」とは呼ばない。
「お兄様は本当に何も知らなかったのですか?」
「神に誓って。俺は本当に何も知らなかった」
……どうなんだ、この兄。
レグネルが私の味方なのか否なのかもよく分からなくなってきた。
私が王家から届いた婚約の手紙を見せた時もさほど驚いた様子はなかったし……。知っていた可能性も充分にある。
「おいおい、そんな目で見るなよ。俺は『勇者試験に初めて女の子が受験する』しか知らないよ」
「……からかってるんですか?」
「まさか。とんでもねえ妹を持った楽しみをたんと味わってるのさ」
レグネルの笑いに私は勇者試験のことを少し振り返る。
……私が落とされた理由は「女だから」としか考えられない。
勇者は一人だけしか選べれない。国中の十六歳以上の男が応募をして、たった一人が残る。女が勇者試験を受けるのは場違いにも程がある。だが、出願できてしまったのだ。
教官も女の私が来たことには驚いていたが、なんとか対応してくれた。
「あ~~~、もう! どうして私が落ちたのよ」
「…………それは王宮に行ってみたら分かるかもねぇ」
兄が外を眺めながら何かボソッと言っていたが、私は自分のことで精一杯で聞き取れなかった。
勇者試験……、私が落ちたのなら、一体誰が合格したっていうのよ。
私はそのことをずっと考えながら王宮へと向かった。
「相変わらず無駄に大きい場所ね」
馬車から下りての私の第一声にレグネルが苦笑いする。
「お前ぐらいだぞ、そんな嫌そうに王宮を眺めるの」
「あまり好きになれないのよね、ここ」
「王宮に来た時の記憶なんてほとんどないだろ」
「……そう! そうなのよ! 王子と会った記憶なんてないのに、どうして彼は私を選んだの? 遺産目当て? それなら第一貴族を狙ってほしいわ」
私が勢いよく声を発していると、レグネルは私の口に手のひらを押し付けて、強制的に喋るのを止めた。
もごもご話していると、兄は「よくここでそんなこと言うわ」と呆れた表情で私を見る。
…………そうだ、ここ王宮だ。不敬罪で首が飛びかねない。
気をつけないと……。
私は意を決して王宮の中へと入った。
「ねぇ、レグネル。王子ってどんな人?」
ベテランの執事に連れられて、私とレグネルは王宮の廊下を歩く。突然の訪問なのに、あっさりと受け入れてくれた。
レグネルとヴィナス王子が仲が良いからこそ、こんなにもスムーズに王子に会えるのだろう。普通は断られるはず……。
「女みてえな奴」
少しの沈黙の後、レグネルは口を開いた。
おいおい、あんたが不敬罪で首をはねられるよ?