140
「俺に何を聞きたいんだ?」
頭の中が混乱しつつも俺は静かにヴィナスにそう聞いた。重い沈黙が落ちる。ヴィナスは小さく息を吸って、じっと俺の方を見る。
普段のヴィナスとは違い、真剣な眼差しだ。透き通るような神秘的な瞳に俺が映る。
「レグネル、お前は数少ない俺の友人だ」
ヴィナスにそんな風に言われるのはどこか嬉しい気持ちになる。
「そして、ケーレス家の長男であるお前に聞きたい。エルヴィの力はケーレス家に存在したかつての『勇者』と同じものか?」
ヴィナスにそう聞かれた瞬間、自分でも表情が曇るのが分かった。
……なんて答えるのが正解なんだ。
はるか昔、ジェガナ国を救ったオレンジ色の瞳の勇者の力をエルヴィが受け継いでいるとなれば、妹の未来は不穏になる。
「なぜそれを知りたがる?」
「……僕の魔法が解かれたんだ。僕の魔力はどれほどのものかお前も知っているだろう? 解けるものなどこの国にいないと言っていい。それをエルヴィは解いたんだ。……彼女の力が強まっている証拠だ」
国で一番と言われているヴィナスの魔力は嫌ってほど知っている。
何も答えない俺にヴィナスさらに言葉に加えた。
「エオザルを倒した時に察するべきだった。あの魔物は幼子が倒せるような相手ではない。きっと、エルヴィの中に秘めていた力が危機を感じて発動したのだろう……」
「…………祖先の話はするな。そもそも彼の話はタブーだろ」
俺はヴィナスに鋭い視線を向ける。
ヴィナスはエルヴィの力に気付いている。それを血縁の俺に確かめたいだけだ。
「もう一つの言い伝えを特別に教えてあげよう」
ヴィナスはそう言って余裕そうな笑みを浮かべた。
もう一つの言い伝え……?
あの言い伝え以外にも言い伝えが存在するというのか……?
知りたくない。……だが、知るしかない。
「なんだ?」
「『太陽の瞳が持つ少女に宿る光は闇を退け、災いを焼き尽くす。しかし、少女が怒りに目を曇らせれば、その力は祝福ではなく裁きとなり、国を滅ぼすであろう』と」
ヴィナスの言葉に俺は顔を顰めた。
本当に聞いたことのない言い伝えだった。貴族議会が管理している極秘情報だろう。
オレンジ色の瞳を持つケーレス家の祖先のことを思い出す。彼と同じ運命を辿ることになるかもしれない、と。
「……エルヴィも彼と同じ運命を」
「そうはさせない。……言い伝えは世間にも公表させたりしない。そのためにも知っておきたいんだ、エルヴィの能力を」
ヴィナスは確かな声でそう発した。
確かに世に公表されれば、厄介だ。エルヴィの存在が国民の不安を煽る存在となる。国が危機的状況なのだと混乱させるわけにはいかない。
分かったよ、と俺は小さくため息をついて、ヴィナスと目を合わす。そして、ゆっくりと口を開いた。
「エルヴィは間違いなく受け継いでいるだろう。オレンジ色の瞳を持つ、ケーレス家にかつて存在した勇者ジャドリック・ケーレスの力を」




