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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「君に紹介したい二人がいるんだ」

 僕はエルヴィを「騎士団長」として接することにする。エルヴィは「紹介したい人?」と僕の言葉を繰り返して、首を傾げる。

「ああ、明日紹介することになると思うが……、一応伝えておこうと思って」

 本当はエルヴィに話などなかった。ただ、一刻も早くアーサーからエルヴィを遠ざけたかっただけだ。

 あれ以上、エルヴィに触れていたら、俺は奴を殺していた……かもしれない。

「誰を紹介しようとしているのですか?」

「ここで捕らえた侵入者を覚えてるかい?」 

「はい。もちろん」

「彼はレグート国の者だ」

 エルヴィの目が大きく見開くのが分かった。

 俺はできるだけ声を落として、エルヴィにルイスとグレッグの存在を説明した。エルヴィはガルロット族は全滅したとばかり思っていたらしく、衝撃的だと驚いていた。

 僕の話を全て聞き終えた後、彼女は呆然としながら「……生き残りがいたんて」と小さく呟く。少しして、彼女はハッと何かを思いつき、勢いよく僕の方へと顔を寄せる。

「その人たちにレグート国と魔物の関係について聞けるということですか!?」

「ああ。それに、彼らをエルヴィの騎士団に入れようと思っているからね。君の口から聞きたいことを質問してくれたらいいよ」

 エルヴィの表情が明るくなり、少し興奮気味に話し始める。

「聞きたいことは山ほどあるんです」

「彼らも全てを知っているわけじゃないから、あまり期待をしない方が……」

 エルヴィはもう質問内容について考え始めて僕の話を全く聞いていない。ブツブツと呟きながら、顎に手を置いて考え込んでいる。

 ……エルヴィらしい。

「明日は早い。それにあんな騒動もあったんだ。今日はもう早く帰った方がいい」

 僕がそう言うと、エルヴィは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 夜風が通り、エルヴィの髪が柔らかく靡く。数秒の間、静寂が僕らを包み込む。エルヴィは僕から目を逸らすことなく、ゆっくりと口を開いた。

「……何があったのかヴィナス様は聞かないのですね」

「聞いてほしいのかい?」

「いえ。……その、折角のパーティーを台無しにして申し訳ございませんでした」

 エルヴィは頑なに、薄ピンクの髪色の女に謝らなかった。その彼女が僕に頭を下げている

 よほどのことをしたのだろう、あの女は。

「エルヴィ、頭を上げて」

 僕は優しく彼女にそう言った。エルヴィはゆっくりと頭を上げて、僕を見る。

「何があったのかある程度は把握しているつもりだ。……それに、謝る必要はない。ちょっとしたアクシデントだ。ほら、もう今では元通りに皆パーティーに夢中だ」

 僕はそう言って、会場の方へと視線を向ける。明るく、賑やかな様子がここにまで伝わってきている。

 それに、エルヴィが薄ピンクの髪の女の頭を掴んでいるところは正直ゾクッと来た。乱暴な仕草なはずなのに、なぜか気品を感じられた。そこには圧倒的な強さと美しさがあったのだ。

 何があっても僕はエルヴィの味方だ。

 だが、今回は僕が割り込む前にレグネルとエルヴィの兄妹喧嘩……と言っていいのか分からないが、言い合いが始まったから、あえて外野にいた。

 ………………それなのに、あの男――アーサー・リグリットが現れた。

 全く予想もしていなかった。彼が突然エルヴィを抱き寄せるなんてね。

 ああ、今でも思い出しただけで腸が煮えくり返る。

 そんな僕の感情など知らぬエルヴィは静かに僕に一礼をする。

「ありがとうございます、ヴィナス様。……では、私はこれで」

 彼女はこの場を去っていく。僕は華奢だが、よく鍛えられているピンと伸びた背中を見送る。少し歩き進めた所で、突然エルヴィは「あ」と小さく声を漏らし、立ち止まる。

 そして、くるっと僕の方を振り向いた。彼女の一つにまとめられたオレンジ色の髪が月光を含み、光を帯びながら弧を描く。

 夜を切り裂くように輝く橙の瞳は僕を射抜くように見つめた。ドクンッと心臓が跳ね上がる。エルヴィから視線を外すことができない。

「ヴィナス様、私は勇者になれなかったけれど、貴方の婚約者になれて幸せでした。それだけ伝えてくて」

 僕の心を一瞬で溶かすようなその眩い笑みに、思考が停止した。

 エルヴィはそれだけ言い終えると、今度こそこの場を立ち去った。僕は何も言えずに、固まったまま惚けた。

 エルヴィには何度も心を奪われる。

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