137 ヴィナス・ジェガナ 十八歳
エルヴィを連れて、前回に舞踏会を抜け出した時と同じ場所に来た。植物に囲まれているから、誰かに見られる心配はない。
「……あの」
どこか気まずい沈黙の中、エルヴィは口を開く。
「なんだい、エルヴィ」
自分の声がいつもより低く、苛立っていた。
…………この怒りはアーサーに対してだろう。……いや、自分に対してだ。
あの時にエルヴィのすぐそばに近寄ったのが、自分じゃなかったということにとてつもなく腹を立てる。
僕はレグネルを呼び出し、会場から少し離れた別室で二人で話し合っていた。エルヴィの記憶に関してだ。あの会話のせいでレグネルもかなり気が重くなっていた。
だから、エルヴィにも当たりが少し強くなってしまったのだろう。
会場に戻った時には、音楽は止まっており、会場に重い空気が流れていた。
リーシャ・グラファンの首元に巻かれているストールを見て、ある程度は察した。レグネルはそこまで頭が回っていなかったのだろう。
きっと、あの薄ピンクの髪の女がリーシャに対して酷いことを言った上に、口元を覆っている布を取ったのだ。そして、エルヴィの怒りが限界を超えた。
エルヴィの行動は正しいとあの場の誰もが理解しているはずだ。……誰も、声を発さないだけで。
「怒っていますか?」
エルヴィはどこか不安そうに僕の顔を覗き込んだ。
「エルヴィには怒っていないよ」
僕は笑顔を作る。エルヴィは不思議そうな表情で「私には……?」と呟いていた。
今夜のエルヴィはまた一段と綺麗だった。これほど美しい彼女を誰にも見せたくないという独占欲が湧く。
「ドレス、すごくよく似合ってるよ」
「……ヴィナス様のおかげです。こんな素敵なドレスを贈ってくださり、ありがとうございます」
エルヴィのはにかむ姿に思わず抱きしめたい衝動に駆られる。……が、なんとか理性で耐える。
社交界の中で最も目を引くのがエルヴィだと言ってもいい。彼女は気づいていないだろうが、男女問わず皆がエルヴィに釘付けだ。
「もう少し自分の美貌を自覚して」
「……それ、私に対して言っていますか?」
僕の言葉にエルヴィは眉間に少し皺を寄せる。
「他に誰がいるんだい」
「……ヴィナス様」
彼女はそう言って、真っすぐ僕の顔を見る。冗談で言っているとは思えない真剣な目だった。
「僕?」
「ヴィナス様こそ、ご自分の美しさを自覚してください。さっきの桃色頭の……桃色ヘアの女性もヴィナス様に見られて、メロメロでしたよ。……それぐらいヴィナス様の容姿には破壊的威力があるということです」
僕がエルヴィに対して注意するはずが、いつの間にか僕が詰められている。
エルヴィは「まったく」と少し頬を膨らます。
…………もしかして、妬いている?
そう思った瞬間、僕の中で感情が爆発した。ああ、なんて可愛いんだ。
「……ところで、お話ってなんですか?」
感情を必死に抑えていると、エルヴィはふと思い出したようにそう言った。




