136
この人も敵に回したくない、と改めて思う。
「……話は分かった。……一旦、彼女を借りるよ」
いつの間にかアーサーの腕の中からヴィナスの腕の中へと移動していた。
心の中で「え!?」と声を上げたが、極力顔に出さないようにする。
私は自分の身に何が起こったのか分からず、顔を顰めたままヴィナスをじっと見つめた。
こっちに瞬間移動でもしてきたの……!?
レグネルがいつの間にか一人になっており、私の頭上でアーサーとヴィナスが冷たく睨み合っているのが分かる。……なんだか寒い。
「もう彼女とは婚約……ッ、彼女とは関係ないのでは?」
アーサーはやはり「婚約破棄」という言葉は言えないようだった。
「新たな騎士団長と今後の話があるんだよ」
ヴィナスは笑顔で答えるが、その表情がかえって怖い。
私を握るヴィナスの手に力が入るのが分かった。「エルヴィに近づくな」と牽制しているようにも思えた。
「おい、あの女性を別室に運べ。厚いもてなしを」
ヴィナスは近くにいた使用人にそう言って、桃色の髪の女の方へと視線を向けて柔らかく微笑んだ。桃色の髪の女は顔を紅潮させて「キャッ」と嬉しそうに声を上げる。
使用人が数名やって来て、桃色の髪の女に手を差し伸べて、この場から離す。
「……レグネル、君も少し疲れているだろう。リーシャ、彼をバルコニーで休憩させてあげてくれないか」
「ええ、もちろんです、殿下」
ヴィナスの言葉にリーシャは反射的にドレスのスカートを摘み、頭を垂れる。
リーシャはレグネルの腕に自分の腕を回して、そっとこの場から去っていく。レグネルは何も言わず、私と一切目を合わさなかった。
ヴィナスは軽い口調で声を発した。
「せっかくの夜だ。楽しいパーティーの続きを始めよう。音楽と共に踊ってくれ」
軽い調子の一言に音楽が会場に流れ始める。場の緊張はふっと緩み、明るくなる。一瞬で空気が軽くなるのが分かった。
不穏なざわめきが賑やかな笑い声へと変わっていく。
…………王子パワー凄い。
私がヴィナスに感心していると、ヴィナスが私の耳元で囁く。
「僕たちも一度ここを出よう」
優しく手を引いて堂々とこの場から退出する。ここを去る際に、ふとアーサーがいる方を一瞥した。黄色い瞳と目が合う。
……どうしてアーサーはあの場で助けてくれたのだろう。




