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一瞬で場が凍り付いた。
誰もがリーシャの顔に視線を向けた。人々が黙り込む中、美しい音楽だけが流れており、かえって残酷さを増した。
息をのむ音や後ずさる音が聞こえてくる。
汚いものを見るような視線がリーシャに注がれる。嫌悪や恐れ、少しの同情がこの場に漂う。
リーシャは固まったまま、自分の顔を隠そうとしなかった。何が起こったのか分からないという表情を浮かべていた。
顎から首にかけてのひび割れたような硬い灰色の皮膚は私たちが知っている人間の皮膚ではなかった。
何も声を出さないリーシャはゆっくりと私の方へと顔を向けた。黒い瞳と目が合う。助けを求めていた。
涙を出さまいとするその目に胸が張り裂けそうになった。
私は反射的に彼女の元へ駆け寄り、自分のストールを彼女の口元が隠れるように首元に覆った。「もう大丈夫だから、何も心配はいらない」と彼女の耳元で囁く。
「ほら……! ほら、やっぱり!!」
桃色の髪の女はリーシャを指さして、叫ぶ。
本当になんて品性がないのだろう。本当に令嬢なのか疑うほどだ。
「何をしたのか分かってるの?」
私は感情的にならないように、怒りを必死に抑えながら女の方を見つめた。
「分かってるわ。私はこの女がやっぱり化物だってことを伝えたのよ! 気味が悪い肌は本当だったのよ!」
「ふざけないで」
私は小さくそう呟き、桃色の髪の女の元に急接近した。そのまま躊躇うことなく、髪を引っ張るようにして彼女の頭を思い切り掴んだ。彼女の顔は一瞬で恐怖に覆われる。
「許さないわよ。リーシャを傷つけるその口なんていらないわよね? 縫い付けましょうか」
私は彼女の頭を握っていない方の手に魔力を宿す。メラメラと揺れる魔力の光に女は涙目になる。
「い、いや。お、おねが、い、や、やめてくだ、さい……」
私を見上げるようにして見る女の瞳からは涙がこぼれ落ちていた。私は魔力で女にかけて、圧倒的な力の差を感じさせながら、脅していた。
気付けば、音楽は止まっており、空気は張り詰めていた。この会場から一切の動きが消えて、使用人までもが私たちの様子を見ていた。
「そのちっさい頭でよく考えなさい。貴女が罵ったリーシャの皮膚はね、魔物と戦った誇り高き勲章よ。それが何故分からないの? 魔物に抗った事実を表す美しい痕だということが何故分からないの……!」
私は感情的になり、いつの間にか声を上げていた。私の覇気のある声が会場全体に響く。
「もう、もういいんです、エルヴィ様」
その震える掠れた声に私は動きを止めて、リーシャの方へと視線を移した。
リーシャの潤む瞳からはとめどなく涙が流れていた。彼女の泣き姿が更に私の心を締め付けた。
「何があったんだ!?」
その声と共に息を切らしたレグネルが慌てた様子で姿を現した。その隣にはヴィナスもいた。
二人の視線が私の手元へと向けられ、私はハッと桃色の髪の女から手を離した。
「…………騒ぎを起こしたのか?」
レグネルは訝し気な目で私の方を見た。桃色の髪の女は声を張り上げて泣いている。
この状況はどう見ても私が悪い。




