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「やっぱり、やめときます。俺はカイル団長の元へしごかれます」
ラビルはすぐにそう答えた。
「賢明よ」
「……エルヴィ様!」
突然聞き覚えのある澄んだ声が耳に届く。声がした方を見ると、リーシャがこっちにやって来るのが見えた。
「それじゃ、俺はこれで失礼します」
「ええ、パーティーを楽しんで」
私はラビルと別れて、リーシャの元へ足を進める。
普段落ち着いているリーシャが目を輝かせて私の元へとやって来る姿は可愛らしかった。
首元が詰まった赤紫色のレースドレスを身に纏い、今日は髪を赤い簪で一つにまとめていた。藍色の髪に赤がよく映える。
「お兄様と一緒だと思っていたわ」
私はそう言ってリーシャに話しかける。
兄曰く、リーシャとの関係は元に戻ったそうだ。……つまり、仲直りしたってこと。
深くはあまり教えてくれなかった。だから、私もヴィナスとのことを深くは教えなかった。ただ「騎士団長になることになった」と言ったら「どういう流れで!?」と大声を上げられた。
もちろん、詳しくは教えなかった。
……だって、リーシャと何があったのか詳しく教えてくれなかったんだもの!
「さっきまでレグネル様と一緒にいたのですが、今少し外してまして。エルヴィ様は本日もとても輝かしく、お綺麗です」
穏やかな口調で私を褒めてくれる。
「ありがとう。あんまり煌びやかに着飾っているわけじゃないけどね」
「エルヴィ様は飾り立てずとも目を引く美しさです」
「リーシャもよ。今日はいつもと印象が違っていて、すごく素敵だわ。リーシャに合った良い色の簪ね」
「……レグネル様にプレゼントしていただいたんです」
布越しだったが、リーシャの頬がほんのり赤く染まっているのが分かった。
「お兄様が?」
私は思わず驚きで眉間に皺を寄せてしまった。
レグネルが女性にヘアアクセサリーを贈るなんて……。そんなことあるのね。
リーシャは少し恥ずかしそうに「はい」と頷く。そのリーシャの様子から、私はリーシャとレグネルの関係が前よりも発展していることに気付く。
何が「元の関係に戻った」よ! 関係が発展しているの間違いでしょ!
私がリーシャとの会話で盛り上がっていると、周囲から敵意ある視線を感じた。……前回の舞踏会と同じだ。
チラッと周りの様子を一瞥する。
騎士たちでなく、子息と令嬢たちの鋭い視線が私たちに向けられていた。笑顔のまま、視線だけがこちらをチラチラと向いている。
私たちの目の前で囁き合い、わざとらしく「彼女が?」と声を出し、くすりと笑う。
名を出さないが、私たちに関して言っていることだけは分かった。……特に、リーシャに関して。
優雅な音楽や高い笑い声に紛れながら「呪われているもの」や「布を外したら酷い顔だそうよ」と聞こえてきた。
…………最悪。めちゃくちゃ気分が悪い。
私に聞こえているということは、もちろんリーシャにも聞こえているということだ。




