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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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 会場は前回よりも確かに人が多く、まったく雰囲気が違った。

 賑やかで、男性がとても多い。低い笑い声があちこちで聞こえてくる。社交界の嫌な空気感がない。

 ……なんだか、気が緩むわね。

 会場にいるメンバーは、訓練場でよく見る者たちばかりだった。皆、ここでは正装を着用しており、なんだか新鮮だ。

 暫く訓練場に顔を出していなかったから、久しぶりに感じる。

 私のために扉が開かれ、会場に入るなり、目を大きく見開いて全員が私を見ていた。……全員っていうのは、過剰表現じゃなくて本当に全員。もちろん、騎士たち以外も。

 遅刻したから!? ……って思ったけれど、そんな雰囲気でもなかった。

 彼らの目は前回と変わらず「エルヴィ・ケーレス」に対しての興味だ。騎士たちの半分ぐらいは惚けた様子で私を見ていた。

 きっと普段と全く違う格好の私に驚いたのだろう。

 私は凛々しい表情を保ちながら、会場へと溶け込んだ。

 騎士への感謝祭という名目は凄い。誰も私と王子の噂話をしている者はいなかった。

 耳に入ってくる話は男女の容姿についてコソコソと褒め合うという平和的なものばかり。

 ……私、この舞踏会は好きかも!!

 顔には一切感情を出さずに、心の中でそう叫んでいた。

「エルヴィ嬢」

 誰かに声を掛けられ、私は視線をその人の方へと向ける。

「……ラビル」

 私の名を呼んだ男性の名を口にする。

 ラビル・ボッチェル。王宮騎士団の一人だ。

 基本的に不真面目だが、能力はある。少し癖のある肩より少し短い茶髪をいつもハーフアップにしている。

 私が訓練場へと行くたびに彼は気さくに「エルヴィ嬢~」と声を掛けてくれる。

「見違えました」

 ラビルは目を丸くして、私をじろじろと見る。周囲からも同じような視線を感じた。

 ……令嬢の部分を知られてしまうと、次から訓練場に行きにくい。

「まるで女神ですね」

 女神はヴィナスの方だ。

 心の中でそう返しながら、私は「なんの女神になれるかしら」とラビルに聞いた。

「そりゃもう戦いの女神ですよ」

「悪くないわね」

「……エルヴィ嬢は令嬢としての参加ですか? それとも」

「騎士団長としてよ」

 少し躊躇いがちに聞いてきたラビルに私は被せるように声を発した。

 なるほど、とラビルは首を縦に振る。

「こんな美女団長がいるなんて、みんなエルヴィ嬢の方へ移動願い出すんじゃないですかねぇ」

「私、カイル団長より厳しいわよ?」

 ラビルに圧を掛けるように笑みを浮かべ、低い声でそう言った。

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