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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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 ……どうして、私は着飾っているのかしら。

 鏡に映る完璧な化粧を施された自分の顔を見つめる。ローズは私の髪を櫛で丁寧に梳いて、頭の高い位置でポニーテールにまとめる。サラサラと頭の後ろで私の髪が揺れる。

 垂れてくる長い前髪を横に流し、軽く額を覆い、ピシッとワックスで固める。顔全体が引き締まって見える。

 ローズは美的センスが非常に良い。そこに関しては誰よりも長けている。

 私の猫のような目の形を活かして、アイラインが引かれている。落ち着いたオレンジブラウンのリップ。

 そして、ドレスは落ち着いた橙を深く溶かし込んだ茶系のビスチェドレス。ローズ曰く、デコルテが綺麗に見えるそうだ。

 鏡で確認してみると「確かに」と思わず口に出してしまうほどだった。

 一気に大人びて見え、最高品質の柔らかみのある衣裳だ。

「完璧です!」

 ローザは私の髪を整え終えて、そう言った。

 私はドレスと同じ色の薄いショールを体に絡めて、その場に立ち上がる。

「まぁ! なんてお美しいのでしょう!」

 目を輝かせるローザに「そう?」と言いながら、完成した自分の容姿を鏡で一瞥する。

 一見シンプルで飾りはほとんどないけど、隠しきれない品格を感じるドレスに私は「すごいわね」と呟いた。

「流石、ヴィナス様が送ってくださったドレスです。格が違います」

 ローズの高い声に私は憂鬱そうにため息を吐いた。

 そう、今から急遽パーティーに参加しなければならなくなったのだ。ローズが私を大声で探していた理由がそれ。

 これほどおめかししているのは、今夜、舞踏会に行くからだ。……それもまた王宮で開かれる。

 前々から予定されていた舞踏会だが、もちろん私は行くつもりはなかった。前回参加したのだから、しばらく参加しなくていいと思っていたけれど、そうはいかないらしい。

 先ほど、ヴィナスから急に贈り物が届いたのだ。「今夜、待ってる」と、小さく私宛にメモが添えられていたらしい。

 それで、ローズは急いで舞踏会の準備に取り掛かってくれたというわけだ。

 ヴィナスの意図が全く読めない。

 ……騎士団長として強制参加?

 もう婚約者でない私はどんな顔で社交界に参加すればいいのよ。

 しかも、よりによって今夜!! 私の騎士団のメンバーを決める前夜よ!!

「今夜の舞踏会は『騎士への感謝祭』を名目に開かれるようですね。騎士の皆様たちも参加するなんて、きっと豪華でしょうね~~」

 目をとろりとさせながらローズはそう言った。

「え、騎士への感謝祭?」

「そうですよ」

 …………やられた。

 それなら、私を「婚約者」としてではなく「騎士団長」として容易に呼べる。

 策士ね、ヴィナス。 

「というか、なんで知ってるの?」

「逆になんで知らないんですか……」

 ローズは呆れた目で私を見る。

 そんなの常識だと言わんばかりの目だ。

 それもそうだ。これほどまでに舞踏会に興味を抱いていないのは私ぐらいだろう。どこでどんなパーティーが開かれるかは貴族だったら把握している。

「……もう出ないと!」

 ローズは時計を見てハッと慌てた様子で私にそう言った。

 急遽のドレスアップだったから、時間を要した。……つまり、私は若干遅刻しており、レグネルはもう家を出ている。

 ……行くかぁ。

 私は重い気持ちを鼓舞させる。魔物退治よりも社交界の方が気合いが必要だ。

「ヴィナス様もきっと今夜のお嬢様のお姿に釘付けです」

 嬉しそうに顔を綻ばせるローズに私は「ありがとう」と笑みを返す。

 ローズは私とヴィナスの婚約が解消されたことを知らない。

 ローズだけでなく、貴族の多くがまだ知らないだろう。…………知っているとしたら、議会ぐらいだ。

 ただ、今回は新たな騎士団の団長として呼ばれているはずだから、王子との婚約については深く探られないはず。

 ……全て考えられた上で、私はヴィナスに呼ばれたのね。

 本当に流石よ、ヴィナス。

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