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「自分で選んだ道です。挫けたりなんかしない。女の騎士団長なんて最初から認められるなんて思っていません。先日、街に現れた魔物の対処に関与したから選ばれただけでしょう。……だからこそ、楽しみなんです。この世界を少し変えれるかもしれないって期待と希望が私にあるんですよ? そんな光栄なことはない」
私は父の相貌を真っすぐ見つめ、確かな声でそう言った。父は黙って、少し目を見開いて私を見つめ返していた。
スゥっと小さく息を吸って、私は言葉を付け加えた。
「お父様、安心して。私はケーレス家に恥じないような生き方をします」
「……いい答えだ。覚悟あるその目を見ることができて良かった。少しでも気持ちが揺らいでいたら、止めるところだった」
父は厳格な表情を崩し、柔らかく微笑んだ。
……試されていた?
いや、そんなことよりも、ここに忍び込んだことに対する追及じゃなくて良かった~~!
私はホッと胸を撫でおろす。父も「それにしても良かった」と、どこか安心したように呟いた。その様子に私は小さく首を傾げた。
「何が良かったんです?」
「議会で、勇者落ち集会はかなり問題になっていたんだ。勇者落ちたちが結成して、勝手に魔物退治を行われては困る、と。勇者落ち集会など国が認めていない団体の一つだ。秘密保全の契約など交わしていない。……現場で今回の勇者の存在を知ることになるだろう。そうなると、すぐに国に全体に知れ渡ることになる」
確かにそれは面倒だ。
勇者落ちのほとんどは平民だし、すぐに噂は広まるだろう。……ヴィナス様が勇者になったという事実は、国を混乱状態に陥らせる可能性がある。
巷で「真の勇者」と言われている存在がヴィナス様だということが明かされることになるだろうし……。
勇者落ち集会の身勝手な行動は大きな被害を生むことになる。
「勇者落ちをうまい方向に利用することができて良かったです」
私も勇者落ちの一人だ、と改めて思う。
「応援してるよ、エルヴィ」
父は優しい口調でそう言った。私はふと疑問に思ったことを口にする。
「どうしてお父様は私のことをそこまで応援してくれるのですか?」
……娘を持つ父なら、私が騎士団長になることを全力で止めるはずだ。それに、第二貴族としての身分もある。
勇者試験に落ちた時点で、私を「令嬢」としての道に無理やりにでも引き戻すことはできた。……私が言うことを聞くかは置いておいて。
父は少し考えてから、口を開いた。
「私はお前を天才だと思っている。理由はそれだけだ」
「天才?」
私は予想もしていなかった言葉に思わずオウム返ししてしまう。
「ああ。……だから、私はお前に掛けることにした。令嬢という身でどこまでいけるのか、知りたいんだ。エルヴィの素晴らしい可能性を父の私が潰すわけにはいかないだろう?」
「……お父様」
「細かい処理は私たちがなんとかする。だから、お前が辿り着けた景色をいつか私に教えてくれ」
父の温かな言葉に私は思わず目頭が熱くなった。
「ありがとうございます」
私は僅かに声を震わせながら、父に深くお辞儀をした。感謝に満ちた心を真っすぐ伝えた。
少しして、ゆっくりと顔を上げ、「では、失礼します」とこの場を去ろうとした。
エルヴィ、と父は最後に私を呼び止めた。私は父の方を振り向いた。
「怖くて逃げだしたくても、お前は自分の道をブレずに突っ走ってきた。覚悟とはそういうものだ。甘くなんかない」
「……ええ、分かっています」
「お前は知らないだろう? 恐怖を抱きながらも、勇者になりたいと言っていた自分の目を」
「え? 私の目?」
「その瞬間、エルヴィの目は最も輝いていたんだ」
父の誇らしげな声が私の耳に心地よく響いた。




