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俺の言葉にリーシャは目をぱちくりさせた。
「私、てっきりレグネル様に嫌われているのだと思っていました」
そう見られても仕方がない。
実際、俺はリーシャを避けていた。
俺は一度視線を伏せて、気を引き締めた。自分の周りだけ空気が重くなる。緊張で指先まで冷たくなり、微かに震えた。
……言うんだ、レグネル・ケーレス。
深呼吸をして、俺は再びリーシャと目を合わせた。黒い神秘的な瞳を真っすぐ見つめた。
「俺は、謝りに来たんだ」
言った……!!
もう後には退けない。「謝りに?」と首を僅かに傾げるリーシャに俺は言葉を続けた。
「君を傷つけてしまった。……魔物によって石化してしまったリーシャを見て、俺は……可哀想だと言ってしまった。…………あの時の君の顔が今も忘れられない」
「……悲しい顔をしていた?」
「ああ」
俺は静かに頷いた。
リーシャのその表情を見た瞬間、彼女を傷つけてしまったことはすぐに分かった。そして、失望されたに違いない、と思った。
「もしかして、ずっと気にしていたんですか?」
リーシャは驚いた口調で返す。少し間をあけて、フフッと彼女は小さく笑った。そして、リーシャはゆっくりと話し始めた。
「お互い子どもでした。…………あの時、私は哀れまれたことよりも、自分のこの醜い姿を見られたことにショックを受けたのです。好きな男の子にこんな姿を見られてしまったって。それと同時に、もう一緒にいられないって、幼心に思ったのです。それが悲しくて」
「じゃあ、俺の言葉で悲しんだわけでは……」
「違います」
俺の言葉にリーシャは首を横に振った。
…………お互い誤解したまま何年も過ごしていたのか。
もっと早くに向き合って、ちゃんと話していれば、俺たちの関係は良くなっていたかもしれない。……たらればの話なんかを今考えても無駄だけど。
「蔑んだ目、怖がる目の中、レグネル様の哀れみの目は異質でした。だからこそ、余計に私も貴方の存在を忘れられなくなりました。…………ですが、最近もっと違う目を向けられたんです」
「違う目?」
「純粋な好奇心です」
はっきりと彼女の声が耳の中で心地よく響いた。
「エルヴィか」
「はい、エルヴィ様です。きっと、私のことを何も知らなかったからでしょうけれど、本当に久しぶりに対等に私と話してくれた人に出会いました」
「……エルヴィはきっとリーシャの事情を知っていても、対等に話していたさ」
エルヴィは「人」に関しては自分が直接見たもの、聞いたもの、そして関わったものしか信じない。噂などあてにしない。
だからこそ、根も葉もない噂を流し、人を陥れるような社交界にエルヴィは向いていないだろう。……まぁ、社交界も悪いところばかりじゃないのだが。




