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「新しい騎士団を作る予定なんだ。団長候補はどれもいまいちで……、そこでエルヴィに任せたいと思ってる」
「ちょっっっと待ってください。話についていけません。……私が? 団長? 新しい騎士団? なんの話をしているんですか?」
エルヴィの表情は驚きで歪む。
「魔物増加により、新たに騎士団も増やす計画が進んでいる。……急遽作られるため、洗練されていないだろうし、カイルが率いるような洗練された騎士団ではない。魔物が出現した際の時間稼ぎ程度にしか使えないだろう」
この説明を聞いて、そんな騎士団の団長になりたいと普通思わないだろう。捨て駒のように使われる、と言われているようなものだ。
だが、エルヴィの反応は予想に反して目を輝かせていた。
「……魔物やレグート国に関しての情報がいち早く手に入る。それだけではない、議会で話し合っている極秘内容も君に伝えることができる」
僕は更にそう付け足した。
元々、エルヴィから勇者の座を奪ったのは、エルヴィに危険な場所に行ってほしくなかったからだ。
だが、事情は変わった。エルヴィの能力が今は必要だ。僕だけでは対処しきれないほどにまで敵が大きくなり始めている。
「自分勝手なのは分かっている。だが」
「それで、私を団長に選んでくださったのですね!?」
彼女は嬉々たる声で僕に勢いよくそう聞いた。
……思っていた反応と違う。もっと、懸念するのかと思っていた。
言動が一貫していないのは自分でも承知の上だ。だけど、エルヴィはそれを責めたりなんかしない。むしろ、これからどう動くかにだけ焦点を当てている。
状況は常に目まぐるしく変動するものだ。それに、臨機応変に対処できる能力を彼女は持っている。即効力が高いともいえる……。
僕は思わず口元を緩めた。
本当に君には参るよ、エルヴィ。
「君が適任だと思ってね」
「騎士団のメンバーはどうするおつもりですか?」
「勇者落ちだ。もちろん試験は受けさせる。加入の合否は君が決めていい」
「ほぅ、勇者落ちの効率的な使い方ですね。私はその勇者落ちたちのトップに立てるということですね」
どうして彼女はこんなに嬉しそうなんだ。
僕がエルヴィの様子についていけていないでいると、彼女は更に話を進めた。
「勇者落ちのリスト、そして彼らの成績を全て教えてください」
「あ、ああ」
エルヴィの勢いに押されてしまう。
「勇者試験会場であった場所を使用していいですか?」
「好きに使ってくれ。……一つ聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょう?」
「どうしてそんなに積極的なんだ?」
僕の質問にエルヴィは少しきょとんとして固まった。そしてすぐに柔らかく微笑んだ。
「……勇者落ち、第一王子の元婚約者、今では騎士団長に。こうして見ると、婚約者より騎士団長の方が勇者に近づいた感じがしますね」
そうだな、と相槌を打ちながら、「第一王子の元婚約者」でズキッと僅かに心が痛んだ。
「私、まだヴィナス様に勝つことを諦めていないですよ?」
「え?」
「というか、忘れてませんか? 私との勝負」
「ちゃんと覚えているよ」
「近々ちゃんと予定を立ててくださいね。婚約破棄をしたからって、その約束は反故されませんので。それに、ヴィナス様と勝負するためにも地位があった方がいいでしょ?」
確かに……。なんの関係もない令嬢と一国の王子が戦ったとなれば、なかなかの大問題だ。……エルヴィが更に社交界で生きづらくなる。




