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「レグート国内の民族対立を踏まえて、最近のモリート族の行動を見ると、モリート族は統一国家を目指していると言ってもいいでしょう。他の民族を制覇するつもりです。ガルロット族への襲撃は突然のものだった。……モリート族は自分たちの領土を広げようとしています。そして、そう近くない未来、我が国ジェガナ国にまでやってくるでしょう。そのための準備をもう始めている」
「……始めているとは?」
「魔物です」
エルヴィは僕を見据えながら、確かな声でそう言った。
…………やはり、エルヴィも僕と同じことを考えていたか。
「私も超上流クラスの魔物が街に現れるなんて不審に思っていました。そして、過去の歴史を見返すと一度だけレグート国でそんな事態がありました。魔物の生息地から随分と離れた所で魔物が現れるという異常事態が。……百二十年ほど前にレグート国で行われた禁断魔法です」
……禁断魔法。
エルヴィの言いたいことはすぐに理解できた。
レグート国のライダン魔法団というモリート族に所属している魔法団がある。この国で最も魔法書が保管されている場所だ。我々の知らない禁断魔法が書かれていたものもある。
百二十年前に起こったレグート国での事件はとても悲惨なものだった。
魔物たちを操り支配できるという邪悪な魔法だ。魔物の意識に触れる危険な行為……。
当時のレグート国は大国だった。北の国のマゴリャス国をも統べていたぐらいだ。魔物を自由自在に操るレグート国にジェガナ国も苦戦していた。
だが、当時の「勇者」のおかげでなんとか持ちこたえた。まさに奇跡だった。
……だが、その勇者は歴史書に記されなかった。
彼について書かれた唯一書かれた文献は貴族議会が管理する秘蔵書として扱われることになった。
…………オレンジ色の瞳を持つ勇者について。
「ヴィナス様?」
エルヴィが僕を心配そうに覗き込む様子に僕はハッと我に返る。
つい、意識が違うところに向いてしまった。
「すまない。……それで、レグート国はその悲劇的な歴史をまた繰り返していると?」
「はい。あの事件の結末は制御できなくなった魔物たちの暴走によって、結局レグート国の勢力は劇的に低下しました。一体感を失ったレグート国は、内乱が勃発するように……、今もそれは変わらず……」
そう、そのおかげで我々ジェガナ国も支配されずに済んだ。レグート国が、自滅するのが遅れていればジェガナ国の王都は陥落していた。
一呼吸置いて、エルヴィは「ですが」と付け足す。
「レグート国が同じ愚かな過ちを犯すとはどうしても思えないのです。……歴史から何も学ばない民族なのかもしれないとも考えたのですが、どこか府に落ちなくて。……そこで絞り出した答えが魔法の技術を上げたか、膨大な魔力の元で行っているかです」
いい着眼点だ……。
鋭い視点で、正確な分析力に賢い判断。ますますエルヴィ・ケーレスという女性にのめり込む。
……僕は何度だって君に惚れ続けるだろう。近くにいれば、惹かれずにはいられない。
僕は思わずエルヴィに近くにいてもらう方法を考えてしまう。
……婚約を破棄したんだ。その事実は変えられない。
「どっちの答えも不可能に近いのですが、超上級クラスの魔物を操るほどです。この二つに焦点を当てて、調べてみてもいいかと……」
「エルヴィ、騎士団の団長になることに興味はあるかい?」
「こんな仮説、馬鹿げていますよね。禁断魔法が使用されているなんて…………って、え?」
彼女はようやく僕の質問に反応する。
一つ、彼女をそばに置いておく方法を思いついた。狡くて、卑怯な手だと思われるかもしれない。
だけど、エルヴィと関われる接点があるのなら、どんな手だって使う。




