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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「おかしいと思わないかい?」

 突然、僕はそう口にした。エルヴィは僕の方を見ながら、なんの話か分からずに首を傾げる。

「おかしい?」

「今まで街に魔物が出ることなどなかった。……最近は暗黒の森での魔物出現率も高まっている。異常事態だよ」

「……レグート国」

 彼女はそう小さく呟いた。僕は思わず「ほぅ」と相槌を打つ。

 まさか彼女の口からその国名が出てくるとは思わなかった。彼女は真剣な面持ちで何やら考え込んでいるようだった。僕は彼女の言葉を待つことにした。

 エルヴィほどの聡い令嬢は他にいないだろう。エルヴィの年頃の令嬢は、刺繍などを趣味とする。エルヴィが特殊だ。

 彼女は幼い頃から、勇者試験のために日々鍛錬を積み、勉強も毎日欠かさずに続けていた。そのおかげで色々なことに精通している。

「ああ、もう! あと少しで答えが見つけられそうなのに!」

 エルヴィはそう言って頭をくしゃっと軽く握る。

 綺麗に整ってる髪を気にせずに一つのことに没頭できることは彼女の魅力の一つだ。きっと、エルヴィは僕が隣にいることを忘れているはず。

 エルヴィはブツブツと呟き、情報量をまとめている。頭の中にある情報を結び、一つの答えを導き出そうとしている最中のようだ。

「そんなことありえる? ……いや、でも、それしかありえない。…………魔物は本来は暗黒の森で生息していて、そこから出ることはない滅多にない。というか、ありえない。その前提を持って考えるとやっぱり……」

 自分で出した答えを自分で否定し、また再考する。それができる人間は少ない。

 彼女は急に呟くのをやめて、「ありえないけど、ありえる」と顔を上げて、僕の方を見た。オレンジ色の瞳に吸い込まれるようにして、僕は彼女と目を合わせる。

「私の馬鹿げた仮説を聞いてくれますか?」

「もちろん」

「モリート族が最近ガルロット族を襲いましたよね?」

「……ちょっと、待ってくれ。どうしてそれを知っているんだい?」

 そんな極秘情報を一体どこから手に入れたんだ……。

 エルヴィは僕の反応に、しまった、という表情を浮かべたが、すぐに申し訳なさそうに話し始めた。

「レグート国に調べていたのですけど、巷に出ている情報で知るには限界がありました。……そこで、父の書斎に忍び込んで、貴族議会の資料を盗み見したんです。悪いことだって理解していたのですが、どうしても知りたくて……。情報に貪欲になりすぎました。…………罰せられますか?」

 エルヴィは肩をすくめながら、眉間に少し皺を寄せてそう聞いた。

 その様子がなんだかおもしろかった。

 魔物からレグート国を救ったと言ってもいいほどの功績を残した者を誰が罰せることができるというのだ。必要なら、貴族議会の情報などいくらでも渡そう。

「大丈夫だ。誰にもエルヴィを罰せないし、罰させない」

「……ありがとうございます」

「それで、何か気づいたのかい?」

 エルヴィは険しい表情を浮かべて、再び話を続けた。

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