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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「彼女を傷つけたってどういうことですか?」

 レグネルがリーシャに向かって悪口を言うとは到底思えない。皮膚の石化を揶揄するなんてことは絶対にない。

 妹の私が保証する。兄はそんな人ではない。

「彼女が魔物に襲われた日、俺はすぐに彼女の家に向かった。助かったと聞いて心から安心したんだ。……会いたくない、と言われたよ。リーシャの侍女が俺にそう伝えてきた。当時の俺はまだ幼く、感情に任せて『リーシャに会わせてくれ!』って怒ったんだ。そして、そのまま彼女の部屋に入った」

 レグネルはそこで一旦話しを止めた。彼はゆっくりと息を吐く。

 リーシャの気持ちも分かるし、レグネルの気持ちも分かる。当時の彼らのことを想像すると、胸が痛くなった。

「石化した彼女を見たんだ。…………俺はなんて可哀想なんだって思った。リーシャは俺のその目を見て泣いたんだ。そんな風に見ないでって。俺に見られたことに悲しんだんじゃない。俺がリーシャのことを可哀想だと思ったことに彼女は涙を流したんだ」

 私はレグネルに対して何も言えなかった。なんて言えばいいのか分からなかった。

 後悔の念に押しつぶされている彼の表情を見ると、私まで苦しくなった。レグネルもリーシャも悪くない。

「この前、リーシャが突然家に来ていただろう?」

「……魔物が街に現れた日ですよね」

「ああ、その日だ。エルが屋敷を飛び出して、俺とリーシャは二人っきりになった。すごく懐かしい気持ちになったよ。だけど、ほとんど会話をしなかった。軽く挨拶を交わした後は、俺はすぐに部屋を去った。部屋を出た後、彼女に緊張していたのか動悸が止まらかった」

「リーシャを家に帰したのですか?」

「いや、今は外に出るのは危険だと言って、しばらく応接間で過ごしてもらった」

「一人で?」

 私は思わず顔を顰めた。レグネルは「ああ」と小さく頷く。

「…………なんて意気地なしなの」

 私は呆れて、はっきりとした口調でレグネルに向かってそう言った。

 レグネルは私の発言に驚き、目を見開く。ゆっくりと眉をひそめながら、私に聞き返した。

「今、俺のことを意気地なしって言ったのか?」

「はい。言いました」

「おい、エル。そんな言葉を」

「いいえ、何度だって言わせてもらいます! この意気地なし!」

 レグネルの強くなる語尾に私は言葉を被せる。私はレグネルが反論する余地を与えずに言葉を続けた。

「お兄様は向き合うことを避けてばっかりです。さっき私に言ったことは全部ご自分に言い聞かせていたんでしょう? 自分の想いを塞ぎこんで、相手には何も伝えないなんて、最高にダサいですね、お兄様」

「…………そんなこと分かっている」

「なら、なぜリーシャと向き合わないのですか!?」

「怖いんだよ!!」

 レグネルは爆発したかのように、声を荒げて叫んだ。 

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