表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/142

111

 それからのことはあまり覚えていない。

 起きた時は自分の部屋にいた。レグネル曰く、戦いで気を失った私をヴィナスが運んでくれたそうだ。

 ……無事に家に戻ってこれたということは、ゴッカドルスに勝ったのだと思う。

 私は自室を出て、一回の大きな部屋で庭をぼんやりと眺めながら、ソファでくつろいでいた。

 先日のゴッカドルスとの戦いについて考える。

 なんだかずっと落ち着かない。あの後どうなったのか知りたいけれど、外出する気力もない。

 …………夢だったのかも。

「エル」

 レグネルに名を呼ばれて、私は彼の方を振り向いた。

 彼は私を見るなり柔らかく笑みを浮かべて「調子は?」と聞く。

「それなりに元気です」

 そう答えながら、私はまた庭へと視線を戻す。

 疲労はまだ残っているような気がするけれど、心は元気だ。……ただ、ずっと上の空なだけ。

 あまりにも非日常的な体験をしたから、まだ脳が追い付いていないだけかも。  

 レグネルは黙って私の隣にあるソファに腰を下ろす。

 ……そういえば、レグネルとリーシャの二人を置いて出て行ってしまったけれど、あの後二人でなんの会話をしていたのだろう。

「こうしてエルがゆっくりしているのを久しぶりに見た気がする」

 ……確かに。

 ずっと己の人生を全力疾走で駆け抜けてきた。ソファでぼんやりとしているのなんて、いつぶりだろう。

 レグネルは私が何も返答しなくても、一人で話し始めた。

「魔物にとって損害を受けた街では、人々が一丸となって復興しているそうだ。……エルが守ったんだ」 

 静かに私の耳に響くその言葉に私は少し置いて、ゆっくりと口を開いた。

「全く覚えていなんです」

「……全てを知っている人物に聞きに行けばいい」

「カイル団長ですか?」

 私がそう言うと、レグネルは黙った。

 きっと、レグネルはヴィナスのことを言っている。……けど、今の私はどういう立場でヴィナスと会えるっていうのよ。

 私は地面に落ちていく木の葉を見つめながら、レグネルに話しかけた。

「…………ねぇ、お兄様」

「なんだ?」

「私はもうヴィナス様の婚約者になれないのでしょうか」

 無意識にそんな言葉が口から出ていた。

 ヴィナスの婚約者に戻りたいと思うなんて、少し前の私は考えもしなかった。むしろ、婚約なんてしたくなかったんだもの。

 けれど、今振り返ると、ヴィナスと婚約していた期間を愛おしく思う。

 婚約者に戻りたいと懇願したりはしない。婚約破棄はしっかりと受け入れた。

 ただ、これはレグネルにだけ吐露する私の弱くて脆い部分だ。慰めてもらいたいわけでも、どうにかしほしいわけでもない。

 私の小さな傷ついた想いを誰かに言いたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ