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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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 思い当たる魔物を頭に浮かべた瞬間だった。再び、地面が大きく揺れた。

 とんでもない速さで瓦礫の中から鳥型の魔物が飛び出してきた。黒紫色の巨大な翼を広げて、天高く飛ぶ魔物を見て「やっぱり」と小さく呟く。

 超上級クラスの魔物――ゴッカドルス!! 

 この場にいる全員が首を上げて、ゴッカドルスへと視線を向ける。

 超上級クラスの魔物にしては小さい。……が、その威力は凄まじい。俊敏さは魔物で一番と言ってもいい。そして、魔力を消すことができる唯一の魔物だ。

 あ、まずい。

 私はゴッカドルスを見ながら、心の中でそう呟いた。

「全員耳を塞げ!!」

 カイル団長の声がまた響いた。急いで耳を塞ぐ。

 ゴッカドルスは大きく嘴を開けて鳴いた。キィィィという神経を逆撫でするような金属をひっかいた超高音を響かせる。

 …………頭が割れそうだわ。

 耳の奥を抉り、ひび割れるようなその音に顔を歪めながら、うめき声をあげてその場に倒れ込む者もいる。

 魔力で何とか対抗しようとするが、無理だ。

 なんとか手を打たないと……!

 脳を働かせようとしても、この音が思考の邪魔をする。

 ……人類が負ける?

 ふと頭の中でそんな考えが過った。そんな最悪な展開は絶対に避けたい。

 私はヴィナスの方へと視線を向ける。彼の姿はさっきいた場所にはもういなかった。

 嘘でしょ、この状況下で動いたの? ゴッカドルスからの攻撃を受けている最中に? 

 …………負けていられない。私も移動しないと。勇者はどんな状態に陥っても、歯を食いしばって前に進むのよ。

 気合いだ。もうこれは気合なのだ。

 私は不快な音に顔を顰めつつも、耳を塞ぎながら瓦礫に飛び乗っていき、まだ崩壊していない建物の屋根に上る。

 私はゴッカドルスを睨みつけながら、その場で魔法詠唱を口にした。

 本来なら、魔力を封じ込める魔法だ。ゴッカドルスには効かないが、少しずつ魔力を弱めることはできる。

 この魔法は常に一定の魔力を放出し、ずっと唱え続けておかなければならない。少しでも詰まったり、魔力が途切れたりすると、終わり。超高難度の魔法だと言ってもいい。

 難しすぎて、勇者試験でも出されないほどだからね。

 しかし、勇者になるはずだった私はこの魔法すらもできるようになっていた。それほどの修練を積み重ねていた。

「なんだ? 急に音が消えていく……」

「……何が起こっているんだ?」

「失神寸前だったぜ」

「魔物の力が弱まったのか?」

「嘘だろ? あの怪物が魔力切れしたって言うのか?」

「違う。……彼女だ」

 下の方から、騎士たちの会話と最後にカイル団長の声が微かに聞こえた。 

 なんか、すごく視線を感じる。……けど、今は気にしている場合じゃない。

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