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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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「エルヴィ嬢!?」

 街に着くなり、一人の若い騎士が大きな声を出す。

 騎士団によって早くも街は封鎖されており、危険区域に誰も入ってこれないように騎士たちが数名見張りっていた。

「どうしてここに……!」

 他の騎士たちも驚きの目を私に向ける中、私はバロンから降りて「今の状況は?」と聞く。

「お帰りください。ここは危険です」

「だから、来たんでしょ。良いから状況を教えて」

「ですが……」

 騎士が言い淀む。

 ……そりゃ、困るわよね。

 貴族の私が魔物退治で命を落としたりしたら、大ごとになる。この場所に入れた彼の責任になりかねない。

 勇者の肩書さえあれば……!!

 今のところ、ただの迷惑な我儘お嬢様だ。…………それでも。

「私も王宮騎士団の一員よ。騎士としてここに来たの」

 そう言った次の瞬間、奥から、ゴォォンッと建物が壊れる音がここまで聞こえてきた。街全体が揺れて、地面が震える。

 その轟音と共に私は駆けだしていた。

「エルヴィ嬢!!」

 私の名を叫ぶ騎士を無視して、私は音のする方へと向かった。

 いつもの街ではなかった。空気が張り詰めていて、緊張感に覆われている。

 ……一体どんな魔物が現れたっていうの。しかも街に現れるなんて。

 崩壊された建物の場所までやってきた。

 瓦礫があちこちに散乱しており、酷い有様だった。血の匂いが鼻の奥に絡みつき、思わず顔を顰めてしまう。

 目の前に映る光景は、まさに地獄絵図だった。

 重傷を負った騎士たちが叫び声をあげている。ぐたりと地面に倒れ込み、呼吸が薄れていく騎士もいた。

 救護団は必死に手当てをしているが間に合わない。

 待ち受けているのは「死」だ。そんな絶望の淵に立たされて、騎士たちは疲弊しつつも剣を握りしめていた。

 また、動けなくなりそうだった。

 …………そんな中、目に入ってきたのはヴィナスだった。

 透き通った絹糸のような金髪を一つに束ねていた。綺麗な顔は汚れており、息を切らしていた。

 上級クラスの魔物――ナルシェスを倒したあのヴィナスがここまで苦戦しているって、どんな強者なのよ。

「また来るぞ!」

 カイル団長の声がどこからか聞こえてきた。一斉に騎士たちは半壊した建物の方を向いて戦闘態勢に入る。どうやら魔物は壊した建物の中に姿を隠しているようだった。

 私もとっさに地面に落ちている剣を拾い上げて、息を止めて、敵の様子を窺う。

 ふと、不気味だと思った。

 ……魔力を一切感じない。

 本来なら、魔物が放出する魔力で存在を把握できる。それなのに、どこからも魔力を感じないのだ。

 ……………………嘘でしょ。

 この魔物って、もしかして………………。

いつも読んでいただきありがとうございます!

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