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ヴィナスが強いことは重々承知だ。だけど、今はそんなこと関係ない。
魔物を倒さなければならないという気持ちが先行していた。ヴィナスが来るというのなら、なおさらだ。私なら彼をサポートできる。
「何のために勇者の試験で落とされたんだ!」
レグネルは声を荒げた。その声にリーシャがビクッと小さく身震いをして、目を見開く。
何のために勇者試験を落とされたか? そんなの知らない。
ヴィナスが勇者になったから、私が勇者になれなかった。私は勇者になるはずだったのよ。
「通して」
私はなんとか平常心を保ちながらも、魔力を静かに放った。私の鋭い眼圧と対抗できない魔力でレグネルは顔を顰める。動けないでいるレグネルの隣を私は通り過ぎた。
レグネルは低い声で部屋を出る私に向かって口を開く。
「……死ぬかもしれない。……ずっと勇者になることに対しての怯えはあっただろ?」
流石兄だ。私のことをよく知っている。
「怖いという感情を無理やり押し込める必要はない」
レグネルは続けてそう言った。
「…………もう怖くないの」
私は最後にそう言って、この場を離れた。
本心だった。自分が死ぬことよりも、ヴィナスが死ぬことの方がもっと怖い。
髪を一つに結びながら、駆け足で屋敷を出た。「バロン!!」と馬の名を叫び、口笛を吹く。それに反応して、馬小屋からバロンが私の方へと走ってくる。
私もバロンに駆け寄り、そのまま飛び乗って手綱を握る。そして、街へと疾走した。
エルヴィが馬に乗って、去っていくのをレグネルとリーシャは窓から眺めていた。
後頭部高くで結ばれた鮮やかなオレンジ色を靡かせ、ドレスだというのに馬に跨る様子に二人とも目が離せなかった。
「……かっこいいですね」
リーシャがそう呟くと、レグネルは「ああ」と小さく頷く。
「どうかご無事で……」
リーシャの澄んだ声が静かにレグネルの耳に響いた。レグネルはその声をどこか懐かしく思いながら、ゆっくりと口を開いた。
「…………久しぶりだな」
「お久しぶりです。レグネル様」
レグネルの言葉に反応して、リーシャの目尻がわずかに緩んだ。




