1 エルヴィ・ケーレス 十六歳
勇者に必ずなる。
私はそう誓って、今まで頑張ってきた。……が、今日、幼い頃から抱いていた夢が破れたのだ。
「こんなもの燃やしてちょうだい」
私はよぼよぼと身体を体を縮こませて、近くにいた侍女にグシャグシャにした紙を渡した。
侍女は困惑した表情をしながら、私から紙を受け取った。その瞬間、私は床に膝をつき、今の状況に絶望していた。
「私、勇者になるはずだったのよ……?」
勇者試験不合格通知が届いた。……そう、私は落ちたのだ。勇者試験に!
学力も技術も完璧だった……。
なぜ、なぜ落ちたの? 私よ! 一体なぜ落ちたの!!
凄い剣幕で自分を責める。
「エルヴィ……」
「なんでしょう、お兄様」
兄の声に反応して、私は死んだ目で兄の方を見る。私の視線に兄はギョッとしながらも一つの封筒を私に渡した。
「なにこれ」
「王家からだとよ」
王家から……?
絶賛傷心中の私に良い度胸じゃない。もう少し、夢が破れたことに対して浸らせてよ。
「勇者試験落ちたのか?」
「これで受かってるように見えるなら、お兄様に名医を紹介いたします」
「大丈夫。ちゃんと落ち込んでいるのは目に入っている」
兄は若干引きながら答える。
この金髪サラサラヘアの美形はレグネル・ケーレス。第二貴族のケーレス家の長男である。
我が国――ジェガナ王国の貴族社会は王家を筆頭に第一貴族から第五貴族まで存在する。
私と兄は容姿があまり似ていない。青い瞳を持つ兄に対して、私はこの国では珍しいオレンジ色の瞳だ。……髪もオレンジ色だ。
フレッシュもぎたてオレンジガールとして生きていくのが、ケーレス家の長女エルヴィ、この私よ!
…………フレッシュもぎたてオレンジガールってなんだ?
私は脳内で自分の発言に自分でツッコむ。
父の遺伝を受け継いだのが私だ。兄は母似。……ああ、でも父の瞳は透き通ったグリーンだ。どうやら、私の瞳だけが異質らしい。かつて昔の祖先を辿ると「オレンジ色の瞳」の人はいたらしい。
みんな、あまりその歴史を語りたがらないから、私も深く聞かずに十六年も生きている。
もちろん、めちゃくちゃ気になるけどね!! ……誰も教えてくれないのだから、仕方がない。
良い伝説があったら最高なんだけどな。オレンジ色の瞳を持つ少女は「勇者」になる! とか!
「おおおお、今日も相変わらず忙しい顔だな」
「顔の筋トレです」
私は端整なキリっとした兄に鋭い視線を向けながら立ち上がる。
顔の造りも全く違う。私は朗らかで優しそうな顔立ちだ。そう、性格とは真反対。絶対に兄と反対の造形で生まれた方が良かったと思う。
美少女に生んでくれたことには感謝してるわよ、お母様。
「相変わらずエルの百面相は面白いな」
普段レグネルは私のことを愛称で呼ぶ。
褒められてないな、と思いながら私は手にしていた王家からの手紙を豪快に開けた。
もっと上品に開けるべきなのだろうけれど、やけくそだ!!
「いいねぇ」
兄は煽るような口調で相槌を打つ。
王家からの手紙って一体な……に………………これ……。
私は手紙を開いた瞬間、頭が真っ白になった。
なんてこと書いているんだ、この手紙は……。
「エル? どうした?」
いや、落ち着け、私。
もしかしたら、勇者試験不合格通知で脳がやられているだけかもしれない。少し目を休ませた方が良い。
私は一度目を瞑り、一呼吸おいてカッと勢いよく目を見開いた。
…………内容、変わらず!!
「エルヴィ? おーーい」
レグネルの言葉に無反応の私に彼は呑気に私の顔の前で手を振る。
「破り捨ててやろうか」
私は殺気立ちながら手紙を睨む。王家からの手紙だということで、クシャクシャに握りつぶさないように耐えている。
……変なところで理性働いていることに我ながら驚く。
「なんだったんだ?」
「お兄様! ヴィナス王子とお知り合いでしたよね?」
「ああ……、ヴィナスがどうしたんだよ」
「今すぐ会いに行きます」
私は覚悟を決めた目をレグネルに向ける。
……私は信じない。
勇者試験不合格だったことも、この手紙が第一王子との婚約が決定した内容だったということも。絶対に信じない!!
読んでくださり、ありがとうございます!!




