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1ー5:


「えっ……、なに、これ」


 冒険者ギルドに来て、驚いた。

 初めてこの世界での自分の姿を認識したからだ。


 姿見には、少年と見間違えるボーイッシュな少女が映っていた。


 髪はうなじが見えるくらいのショートカットで、襟足はアデルより短い。色味はダークブラウンで派手さはない。華奢な胴体に細い手足。胸は心許ない大きさ。くりっとした大きな二重の瞳は愛くるしいが、髪色と同じ色なのでパッとしない。というか、もともと私が生きていた世界──日本と変わらない髪と瞳の色だ。

 胸よりも尻が大きく、細い腰から臀部までの曲線を見れば女性と認識できるが、遠目からは顔立ちが綺麗な少年にしか見えない。


 長袖のチュニックに半ズボン。無骨なブーツ、体型を隠すマントを羽織り、華やかさが一切ない。


 これがゲームヒロイン?


 自分で自分にツッコんだ。

 ゲームの中では夢を見たいのに、現実と変わらない地味な姿に肩を落とした。


 ヒロインのビジュアルを、もっと練っておけばよかった。


 ここにきて、一人反省会が始まる。

 主人公のパートナーとなる男性キャラの構想ばかりで、正直ヒロインの姿はちゃんと考えていなかった。


 ヒロイン像に悩んだ結果、キャラデザは後回しにしてしまった。設定が曖昧だった上に、自分プレイヤーの想像力に任せた結果、こんな地味ヒロインに仕上がってしまったのだ。


「リリ! 仕事もらってきた。……って、お前どうした?」


 鏡の前で睨めっこをしている僅かな間に、依頼を引き受けたアデルが戻ってきた。鏡の前で微動だにしない私に驚く。


「……こんなダサい私でごめん」


 力なくぼそりと呟く。


 アデルだって男だ。映える乙女キャラヒロインとウハウハで冒険をしたかったに違いない。

 作者としてのキャラ愛なのか、老婆心なのか。ダサダサフォルムである自分の存在が申し訳なくなる。


「は?」


 意外なことに怒りで震えるアデルの声が返ってきた。一瞬で空気感が穏やかではなくなる。


「何言ってんの? リリはリリ。いつも言っているけど自信を持て。お前はこのままが一番いいんだよ」


 ネイビーブルーの瞳にまっすぐ見つめられ、私はその場で固まった。力強いその言葉はスッと自分の中に馴染んでいく。まるで、その言葉を掛けられるのをずっと待っていたかのような反応だ。


『いつも言っている』とは、どういうことだろう。


「ほら、行くぞ」


「あ、うん」


 考察する間もなく、鏡から私を引き剥がそうとするアデルに両肩を掴まれた。

 次に、手を引かれ、身を翻す。自然に繋がれた手に心臓が跳ねた。


 理解が追いつかない。私とアデルは手を繋ぐほどの仲なのか!?


 作者の想定を超えたオリキャラの行動に戸惑う。動揺する私に対して、アデルはさも当然というように手を繋いでいる。


 胸の鼓動が早くなり、体が熱くなってくる。

 手が汗ばんでくるせいで、手元にばかり気を取られ、何もないところで躓きそうになる。


 ゲームの世界とはいえ、目の前は現実だ。

 しかもアデルの行動は作者が仕込んでいないオリジナル展開。

 意識をしっかり保っていないと、膝から崩れ落ちてしまいそうだ。

 アデルの足を引っ張らないようにと、私は必死についていった。


 自作に翻弄される作者とは、なんとも情けない。




 私たちは、ウルディ新街道にやってきた。ここが今回の仕事場だ。

 冒険の始まりであるブルグスト村の近辺である。下級冒険者で実績のない私たちは、この村が属する領内を越境しての活動は認められていないのだ。


 仕事内容はモンスターの討伐。対象は何であるか、アデルから聞かされていない。


「ひぇ~、薄気味悪い~」


 昼間なのに太陽の光は高い木々の葉で遮られ、僅かな木漏れ日が足元に届く程度。街道と呼ぶには違和感があるくらい廃れている。森を切り拓き急拵えで造った街道は地面を踏み固めたくらいで、石畳で舗装もされていなかった。


「せっかく作ったのに、ほとんど使われないとは、残念な街道だな。舗装する工事費も回収できねぇし、廃れる一方だ」


「うん……」


 聞こえてくるのは木々の葉が擦れる音。明るい時間なのに、まだ一台も荷馬車とすれ違っていない。


 この街道は交易の要衝であるアウリラからの都に至る街道のひとつだ。既に存在していたウルディ街道のバイパスとして開墾された。

その名もウルディ新街道。なんの捻りもこだわりも感じられない。


 元々、村の南方向にあるウルディ街道、つまり旧街道が主要ルートだったが、以北の住人にとっては遠回りであり、不便だった。

 交通の便を解消するためにこの新街道が造られた。通行料を激安に設定したので、さぞ盛況になるかと思いきや、ある問題により利用者はほぼいなかった。


「モンスターが出るって話が広まって、みんな迂回して旧街道に流れちゃうんだね」


 ぼんやりとあたりを見渡すと、木々の間から心地よい風が流れていく。


「……そう、みたいだな」


 アデルは腰に佩いた剣に手をかけ、茂みや木々に視線を向ける。彼の眉尻はきゅっと吊り上がり、緊張感が漂っていた。


 サーっと草を根こそぎ凪ぐような強い風が吹き、それに混じってガサガサっと物音がした。


「きゃーっ!」


 ついにモンスターかと思って飛び退くと、茂みから数匹野ねずみが飛び出し、走り去っていった。


「ふぅ……。なんだ、脅かさないでよ」


 安堵の息をつく。


「ビビってんじゃねぇぞ」


 アデルは全身に警戒心を纏ったまま、私に目もくれずに言った。


「ねぇ、アデル、私らは何を退治すればいいの?」


 私が呑気に話しかけたその時、アデルが剣呑な顔つきに変わった。


「──来る……!」


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