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1ー4:


「で、これからのことだが……」


 食事が片付いたテーブルの上にアデルは地図を広げた。


「えっ」


 目を疑う。

 見慣れたワールドマップかと思いきや、私が創り込んだ世界の外側に別の大陸が広がっていた。


「私たちがいるのはこの大陸だよね」


 地図の真ん中にある陸地を指す。地図にある大陸のなかでも、ひときわ大きい面積を持つ陸地。私が地図ジェネレータツールで生成した大陸だ。


「この大陸の外側にも陸地があるなんて……」


「地理については座学で散々やっただろうが」


「いたっ」


 感心しているとアデルに額を指で弾かれた。痛みが走って額を抑えると、気まずい顔をしたアデルが顔を覗き込む。


「……わりぃ。強くやり過ぎた。大丈夫か? 痕はついて……いないな」


 アデルは私の手を取り払い、露になったおでこを撫でた。

 それだけで顔に熱が籠ってしまう。

 アデルは一瞬固まり、「……ん」と、息を飲み込んだ。彼もまた頬を紅潮させて目を逸らしてしまう。


 明らかにアデルは照れている。

 私も気まずくなって下を向いた。初々しさにますます照れが加速する。


「……つーか、初心者の俺たちはこっちの地図だな」


 仕切り直すようにアデルは大判の地図を畳み、別の地図を広げた。私たちが居る大陸を拡大したものだ。


「……で、ごめん。アデル、私たちの旅の目的ってなんだったけ?」


 まずはそこである。主人公として、大いなる旅の目的について認識合わせが必要だ。

 気の抜けた質問をすると、テーブルに置いていたアデルの肘がずるっとこけた。


「おいおい、相棒! しっかりしてくれよ。そんな大事なことも忘れたのかよ」


 アデルに呆れ顔をされてしまった。


「人を襲うモンスターを討伐しながら、人々の困り事を解決し、……やがて世界を救う……?」


 私は顎を指でさすりながら、シナリオのログラインを読み上げた。


「おう! ちゃんとわかってんじゃねーか! とぼけてどうしたんだよ」


 我ながらぼんやりとしたよくある筋書きだ。

 それに賛同されるものだから、ますます混乱する。こんなにぼんやりとした目的でこの世界を行動できるのだろうか?


「いや、だって、世界を救うとか、無茶苦茶じゃん。世界を苦しめている魔王でも居るわけ!?」


「……」


 その場が凍りついた。ざわめいた店内が静まり返り、客はみんな青白い顔をして私を凝視する。


「えっ、えっ、なに?」


 アデルは大きな溜め息をつき、私の耳に口を寄せて囁いた。


「ばかやろう。それは禁句だって言われているだろ……」


「えっ?」


「ここ数年、モンスターたちの行動が組織化しているように見える。『モンスターたちを率いる王が現れた』と噂まで出ている。これは世界に広まっているが、公式見解は発表されていない。むやみな発言は控えろ」


 黙ってコクコクと首を振る。


 いきなり始まった推し声の囁き声(ASMR)に腰を浮かされつつ、最後まで耐え抜いた。頭に入ってきたのは内容は『公共の場で魔王は禁句』それだけだ。


「……で、モンスター討伐で人助けをしつつ、その噂の真相を確かめる。って言うのが、俺たち冒険者の役目だ」


「へぇ~……」


 自分が創ったゲームの世界なのに、他人事のように呟く。

 それもおかしな話だが、結末に至るまでのシナリオは未完で、ゲームにも未実装だった。主人公がこの世界でどんな目的を見い出して、それを果たしたらどんなラストシーンを迎えるのか。作者であっても見当がつかない。


 その状態で私はゲームの世界に転生してしまったのだ。


「へぇ~……じゃねぇよっ!」


 アデルは人差し指で私のおでこをつついた。

 さっきより優しく。


「まずは村の周辺の街道が狙い目だな。ここは交通の大動脈だ」


 アデルは地図をトントンと忙しなく指差す。


「狙い目って? 何の?」


「……モンスター討伐依頼だよ」


「ああ、そっか」


 この世界は冒険者ギルドに寄せられた依頼を引き受け、問題を解決することで報酬がもらえる仕組みだ。これが冒険者の主な稼ぎ口。特にモンスター討伐は報酬が高い。


「下級冒険者の俺らが行動できるのはこの範囲だからな」


 アデルは指で地図の上で、ぐるっと小さな円を描いた。


「ちっちゃ!」


「依頼をこなした数がある一定に達すると、領主の許しが出て、活動範囲を広げることができる。上級者や特級になれば王国の外や世界を股に掛けることもできるからな」


 アデルの解説を聞き、自分が作ったゲームシステムを思い出す。

 依頼クリア数に応じて冒険できるフィールドが広がっていく。依頼をこなさなければ金も経験値も入手できないし、始まりの村があるエリアから出ることができない。

 特に交通の要衝である街道にはたくさんの依頼イベントが配置されている……予定であった。実装は進んでいないけど。


「だから、この街道が村に一番近くて狙い目なんだね」


「……そういうことだ」


 納得した私の様子を見て、アデルは満足そうに胸を張る。


「腹ごしらえが済んだらギルトに行って、モンスター討伐依頼を片っ端から受けて、金稼ぐぞ!」


 勢いよく立ち上がったアデルは私を置いて一人で先に店を出ていく。


「ま、待ってよー!」


 さすが俺様。私のことはお構いなしに、先頭切って進んでいくのだった。



 何故シナリオが未完なのに、ゲームを創り始めたかって?

そりゃ、始めにシナリオを結末まで書いた方が 良いことは知っている。でも、早く創り始めたかったからだ。


 魔王を倒して世界を救うとか、よくあるストーリーのRPG。

 でも、このゲームはただそれだけじゃない。

 乙女ゲーム。つまり恋愛ゲームの要素も備えている。

 というか、むしろそれがメインだ。推しキャラとイチャコラ旅をする目的で作ったゲームなんだ!


 実は他にも冒険者パートナー(男)はいる。『誰をパートナーに選ぶか?』なんていう乙女ゲームの要素もある。アデル以外の男性キャラも作った。でも実装できているのはアデルと、あともうひとりだけだ。


 ゲームクリアまでの筋書きは完成していないけど、自分好みのビジュアル、声、性格を詰め込んだキャラを、自分が創った世界でいち早く動かしたかった……!


 そうしたら未完のゲーム世界に転生、か…。


 しょうがないじゃないか。もう開き直るしか、ない。



 最高に自分の好み詰め込んだ最推しオリキャラに、自分の性癖をゴリゴリ擦られて尊死する──。


 もしかすると、それがこのゲームの結末なのかもしれない。

 最高じゃないか! オタク冥利に尽きる!

 この世界で自分が死ねば、元の世界に戻れるかもしれないし!

 結末までのシナリオが実装されていないから、このゲームに終わり(End Of File)なんてないわけだし、元の世界に戻るには死ぬしかないのでは!?


 私は自分が作った世界(ゲーム)だからと、安易に考えていた。

ものすごく、安易に……。


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