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4ー2:


「この先は……行き止まり?」


 がっかりしたカインの声が反響する。


 身を屈めて進むようなトンネルを通って、自然が作り出した岩の階段を下り、地下水が溜まった水溜りの道を進み、奥へ奥へ進んでいった先にあったのはひらけた空間だった。尖塔を持つ教会がすっぽり入りそうな広さ、高い天井だった。


 だが、見渡しても壁に囲まれていて、先がない。


「ここが本当に目的地なのかい? 何もないけど」


 カインがアデルから松明を奪い取り、周囲を照らしながら毒づく。


「古代遺跡では王族の祖先たちが儀式を行っていたというが、文化的なものが何ひとつ見られないな。石碑のようなものもない。本当にこの場所なのか?」


 声からしては苛立っていた。


 私は思案するふりをしてしばし黙り込む。



 ──今だ。



 周囲を注意深く観察するカインが背を向けたタイミングを狙って、私は指先を軽く弾いた。

 ぶわっと火の粉が飛び、カインの手元に降りかかる。


「あつっ──」


 カインの手から松明が放り出され、小さな水溜まりの中にぽちゃんと落ちた。

 じゅっという音と煙と共に、一瞬で明かりが失われる。

 完全にカインは油断してたようだ。


 カインに隙を与えることなく、掴みかかった。彼が身につけている【石板の欠片】を狙う。


「な、何を──。アデル! この子を取り押さえるんだっ!」


 完全なる暗闇に包まれた空間で、お互いの気配を探るのさえ困難だ。


 アデルの手は私に伸びてこない。視線を送ることができなければ、服従させた人間を動かすことはできないようだ。暗闇の中で視界を封じた今、アデルは操り人形ですらなくただの人形だ。


 カインと揉み合ったすえ、首に下げていた【石板の欠片】のペンダントを奪取した。指先に微力な魔術を発動させ、紐を焼き切った。


「くそっ!! 僕の宝物を奪ったな。返せ!」


 カインは激昂と共に暴言を吐いた。

 完全に我を忘れている。これまでの紳士的な態度は消し飛んでいた。

 これが彼の本性なのかもしれない。思い通りにならない癇癪を起こす子供のような。


 暗闇の中、殺気立つカインの気配を感じる。

 これは力づくで反撃してくるはず。物理攻撃ではなく魔術で。

 急いで【石板の欠片】に手探りで触れる。


「痛い目を見ないとわからないようだね。もう容赦しないよ」


 怒りに震えたカインの声が洞窟内に反響した。

 彼の耳に下がった水晶のピアスが青白く光ったが、闇に吸い込まれていくように消えてしまった。その様子を確認し、()()()()()()()()()()()先を見届ける。


 詠唱に備え、ひゅうっと彼が息を吸い込んだ。



「──氷牙(ひょうが)っ!!」



 カインの詠唱が洞窟内に響いた。声が反響しただけで何も起こらなかった。


「は──?」


 またカインの声が虚しく響いた。


「何が──?」


 カインは言葉を失った。


 何が起こったのか。

 カインの魔術は()()()()()のだ。



 呆気に取られている彼以上に、動揺しているのは私だったかもしれない。

 何が引き起こされるのか検討がつかず、確証もなく、暗闇の中、手探りで【石板の欠片】に触れた。「カインの魔術を封印せよ」と念じて触れたが、実際に成功するとは思わなかった。

 安堵のせいか、ずっと張っていた肩の力が抜ける。


「あなたの魔術を封じたのよ。カイン。これであなたはお得意の魔術は使えない」


「なぜ、そんなことが──!?」


 暗闇の中、ギシギシと歯噛みし、悔しがっている様子が想像できた。


「以前に言ったでしょ。この【石板の欠片】、その本体はこの世界の基盤となるものだって。この世界の法則がここに秘められているの。私は今、その法則をいじって、あなたの力を無効にしただけ」


 【石板の欠片】を手にしてから、カインが力をつけ始めた。

 そこから、この【石板の欠片】にはカインのステータスに関わるソースコードが書かれているに違いないと睨んでいたが正解だったようだ。


 無情なる種明かしを聞いたカインは叫びながら訴えた。


「法則をいじる? それは、世界の法則を狂わせたことになるのだろう? 君は禁忌を犯している!」


 逆にこちらが責められる羽目になり嘆息した。


「……そう。そうよ。これが今まであなたがやってきたこと。それをやり返したのよ、あなたに。本来のあなたは宮廷魔術士の筆頭に一目置かれるほどの実力には至っていないし、森で遭遇した獣のモンスターを一瞬で倒せないし、連続で強大な魔法を放てない」


「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい!」


 カインの初期ステータスを思い出しながら話すと、彼は地面に崩れ落ち、床を叩いた。

 思い当たることがあるようだ。悲痛な涙声は彼が禁忌を犯したことを語っていた。


 苦しむカインの姿を見て、息が詰まった。

 カインに自分の行いを省みて欲しかったから、彼に罰を与えた。

 わかっていても、苦しむ彼の姿を見るのは私も苦しい。



 彼がこの世界(ゲーム)摂理(システム)を操作できるキーアイテム──【石板の欠片】を得たのは偶然の産物だったのだろうが……。


 彼の性質上、虐げられた境遇から欲望を追い求めてしまい、禁忌に手を出してしまった。

 加えて、キャラクターがゲームシステムにアクセスできる抜け穴が生じていたのは、不具合(バグ)が原因。


 カインが闇落ちする原因と機会を作ってしまったのも、不具合を作りこんだ自分のせい。すべて私に責任がある。


「……私は知っているよ。カインが苦しんでいたことも。そこから這い上がろうと必死に足掻いて生きていたことだって」


 少しだけカインに寄り添えるような気がして、自分の胸をぎゅっと握った手で抑える。


「権力なんてなくても、一目置かれる最強の魔術士じゃなくても、私はカインの味方だよ。だから、返そう。この欠片を元の場所に」


「……どうやって」


 カインは途方に暮れ、力無い声を漏らした。


「【石板の欠片】に触れた後、起こったことがあるでしょ」


 人が消えたり、空間が変化したり、強大な力を得たり。

 ゲームシステムに干渉して引き起こされた事象は、歪みとなってこの世界に可視化されていた。黒い影となって──。


 何かに気づいたカイン。息遣いが変わった。息を飲むような。


 同じく気配に気づいた私は右手を高く掲げた。


火球(かきゅう)


 火の玉が周囲を照らすと私たちを取り囲もうとするモンスターたちの姿が浮かび上がった。

 ざっと数えて頭数は十くらい。やつらは光を嫌うように腕で顔を覆った。

 黒い影が現れた直後と同じく、やっぱり出現するのは強大なモンスターだ。


「……なんだ。これはモンスターなのか。人に見える」


「アンデット。人型をした人ならざるモンスター」


 人型のモンスターはフィールドマップには配置していないので、カインが出会うはずもない。


 暗闇に目が効き、閃光を苦手とする彼らは、私の掌で燃える火の玉を毛嫌いし、その場で足を止めていた。


「カイン、あれを!」


 モンスターの奥、鍾乳洞の壁に沿って黒い影が現れていた。

 影、というより空間の裂け目という方が適切だった。

 自分たちの身長ほどの高さで、トンネルの入り口のようにぽっかりと口を開けている。


 だが、そこにたどり着くためにはモンスターを撃破しなければいけない。


「どうやって……」


 カインは同じ言葉を繰り返した。先程の声とは異なり、恐怖と焦燥が混じっている。


「大丈夫。アデルならやれる」


 力強く伝えると、目の色を変えたカインがこくりと頷いた。


「アデルくんっ!」


 主人の叫びと視線で命令を理解したアデルは私たちが居る方へ駆け出し、剣を薙いだ。


空刃(くうば)ッ!!」


 風の刃が複数の方向に放たれ、私を通り過ぎて迫ってくるアンデットを四体真横に切り裂いた。

 黒い影に向かう前方の道は開かれた。残るは後方に六体。


 私たち三人は互いの背を寄せ合い、アンデットと睨み合う。火を恐れるやつらの動きは鈍い。


 カインは足元にある、火が消えた松明を拾い上げ、私の手に灯る火を移した。

 再び松明が赤く燃え出す。

 やっと火の玉を引っ込めることができた頃には微かに疲労が襲う。私の魔力では、例え僅かであっても火炎魔法を発動し続けることは容易ではない。


「ここはアデルに任せて、私たちはあそこへ」


 指し示した方向には空間を裂くように縦に伸びる黒い影。

 カインは頷き、アデルに松明を手渡す。


「アデルくん、やつらは火が苦手だ。……後は頼むっ! 」


 声を合図に私たちはそれぞれの方向に走った。私とカインは黒い影。アデルはアンデットに向かって。


 アデルは一番近い敵を目標に定め、斬りかかった。

 魔剣が持つ風の力を利用し、一刀両断していく。複数体に迫られれば、松明の炎をかざして怯ませた隙に剣を薙ぎ払って一体ずつ次々と始末していく。


「カイン!」


「ああ、わかっているさ」


 アンデットを順調に片付けるアデルの姿を見届けたところで、私たちは空間を裂くように縦に伸びた──黒い空間の中に飛び込んだ。


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