3ー5:
ランデール国王に謁見する日がやってきた。
国内各地から集められた冒険者たちが、宮廷の大広間に集っていた。
剣術を扱う者、魔術を扱う者。年齢も幅広く、若年者から年配者まで様々だ。功績を打ち立てたいと、野心家たちが互いに牽制する視線を交わし合う中、少年のような私の姿は明らかに目立っていた。
「なんだ? ガキがいるぞ」
「坊やは早くママのところに帰りな」
誰かの冷やかしにまた誰かが乗っかり、最後にはどっと笑い声が起こる。
また少年に間違われた。せめて『お嬢ちゃん』にして欲しかった。ふくれ面をしていると、隣でアデルが静かに私の肩を抱き寄せた。
耐えろ。彼の瞳はそう言っている。
いつも私の代弁をして怒ってくれるアデルが静かなのは珍しい。
不思議と彼の顔を見ると、縫い止められたように、唇がきつく結ばれていた。
「アデル?」
声を掛けてもアデルは静かに頷くだけだった。
この場にはカインもいるはずだが、宮廷魔術士としての任があるため、別行動だった。
目を泳がせカインを探すと、彼と同じ勲章をつけたローブの男たちが大広間の奥に整列していた。その末席にカインの姿を見つける。
雑談でざわめく広間に、突如ファンファーレが鳴り響き、執政官が王の登場を告げる。
冒険者一同がその場に跪き、一瞬で会場が静寂に包まれる。
優雅な所作で玉座に腰をおろしたランデール王は数年前に王位を継承したばかりの若き王で、王家の特徴である白金の髪が神々しく光り輝いていた。一目見て高貴な方だとわかる容貌だ。
執政官の合図で面を上げた冒険者たちは、王に見入って、厳かに次の言葉を待った。
「皆の者、よくぞ我が元へ集ってくれた」
声はか細く、疲れ果て、年齢に比べて老けているように感じられた。
「そなたたちは各所で多くのモンスターを討伐し、腕の立つ冒険者たちと聞き及んでおる。そなたらの腕を見込んで、私から頼みがある……」
ランデール王はそこで言葉を切って息を整えた。
「我が妃、ステイシアが忽然と姿を消してしまった……。最愛のステイシアを探し出してほしい。それが今生の願いである」
縋るようにそう告げた王は涙を堪え顔を伏せた。これ以上、言葉を発することが耐えられない様子だ。体を震わせながら、従者に伴われ退場していく背中は長身な体に反してより小さく見えた。
王の背中を静かに見届けていた冒険者たちは、王が去ったことを確認するや否や雑談を始めた。
王妃の失踪を風の噂で知っていた者。初耳で驚いている者。
反応は各々だったが、大体の冒険者たちはある闇の存在が頭に浮かんでいたようだ。
「静粛に!」
この場の進行を取り仕切っていた執政官が声を上げ、喧騒を沈める。続くはずだった王の言葉を代弁する。
「……昨今モンスターの凶暴化や魔王なる者の存在も囁かれている。王妃様に繋がる有力な情報を提供した者に褒美を、無事に王妃様の身柄を取り戻したものには相応しい爵位を授ける」
その場がどよめいた。育ちが貧しい冒険者にとって爵位は一生かかっても手に入れることができない桁違いの報酬である。貴族に名を連ね、王族との繋がりができれば代々に渡って家系安泰が約束される。
冒険者とは民草出身ながら、一攫千金を掴む夢の仕事でもある。
兵役につく者は国から安定した給料が保証されているし、国政に関わり要職に就く者は次世代に渡って要職が保証されている。一方、冒険者にはこれ以上失うものがない。安定した職を得た者が冒すことができない危険な仕事を負うのが冒険者の宿命。
不安定な生活から脱却するために危険な賭けに臨む冒険者も多くいる。野望を持つ冒険者たちの目がギラギラと輝いた。
目の前にぶら下げられた獲物は冒険者の人生を一変する一攫千金もののクエストだ。
会場がざわめく中、私は冷静に王妃失踪の原因は何か考察していた。
ランデール王の妃、ステイシア……。
彼女の容姿、設定を思い出す。もちろん、彼女はモブキャラだ。
王城でのイベントで、冒険者に勅命をくだすランデール王の隣りにステイシア妃はいるはずだった。彼女自身は直接ゲームのシナリオに関わっているわけではなく、完全に王様のお飾り的な存在だった。台詞も出番も少ない。
実装では、彼女の初期位置は玉座の隣りに配置していた。
それが、失踪。作者の私の言葉を借りれば、初期値から対象物が消えたのである。
……何が起こった?
ゲームの中で意図せず発生する不都合な現象と言えば────あれしかない!
不具合だ!
私が仕込んでしまった不具合が原因なのか、ステイシア妃はこの世界から消失してしまったのだ。
ゲームの中ではモブキャラでも、ランデール王にとっては最愛の人だ。
自分のしでかしたことが他人を不幸にしてしまった。胸が痛くなり、心が苛まれる。
何とかしなくちゃ。不具合を修復して、ステイシア王妃を救い出さなくては。
「ステイシア王妃……必ず探し出してみせる……!」
「ああ」
口から漏れ出た静かな決意を、アデルが相づちで拾う。やっと声を発したアデルは驚く様子もなく、冷静に会場の様子を見つめていた。
「アデル?」
彼はそれ以上何も答えない。
本来のシナリオなら、この場でランデール王が語る勅命は、王国の遺跡にはびこってしまったモンスターの討伐命令だったはず。
実際は、ステイシア妃の失踪事件が発生したことで、オリジナル展開に変わってしまった。
──もう想定外な出来事には動じない。
私は自分の責任を取って、この世界に平和をもたらしたい。
それが自分の心を突き動かす原動力になろうとしていた。




