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第十話

 



 あれから十日後。全ての準備が整い、決闘の日を迎えた。

 決闘に本人達の同意以外、必要なモノは無いのだが、組合長には準備が必要だった。

 それは……


「遂にあの野郎が死ぬところが拝めるぜ…」「ゴールドランクの戦い…見逃せねーな!」「死ね死ね死ね死ね」


 決闘の会場である魔物狩り組合訓練場は、多くの魔物狩り達で盛り上がっている。訓練場とは名ばかりのそこは、ただ岩壁に囲まれただけの外であった。

 3/4はレインへの呪詛の言葉だが、1/4はゴールドランクに対する憧れの声である。


 これが組合長の狙い。どれだけ個人で力を持とうとも、自分の伝手を辿れば更に強い者を当てられるのだぞ?という、魔物狩り達への見せしめである。

 この男の権力欲…いや自尊心は、止まる(とどまる)ところを知らない。


 全ての準備は終えたが、あと一つピースが足りない。


「ねえ…そのレインとかいう男はいつ来るのよ?」


 足を小刻みに揺らし、苛立ちを隠そうともしないレキシーは、組合長にそう聞く。

 今日もドレスに身を包み、男達の視線を独り占めしているが、その実、その視線にはずっと興味がない。

 レキシーはこの格好を好き(・・)でしているのだ。


「約束の時間は朝イチ…まだ時間はある」


 朝イチとは朝一番初めに鳴る鐘の事。今その時はとっくに過ぎ、二番目の鐘が鳴りそうであった。


 普通朝イチと言えば鐘がなった時の事だ。ただ明確な基準ではなく、そんなもの程度の基準である為、組合長は何とも言えなかった。


「き、来たぞ!!道を開けろ!!」


 殺されるぞ。そんな声が続きそうだった。

 そして人垣が海のように割れた所から、レインはいつものように、悠然と歩を進める。


「…やっとお出ましね。依頼じゃなくても殺したいと思えたわ」


 レキシーは山賊などの討伐で殺人は行ってきた。

 だが、私生活では殺しなどした事がなかった。端的に言うと、殺すほどの怒りを覚える事がなかったからだ。

 男性器を切った時は世の為、女性の為だと思い、切っていた。

 分かりやすく言うと、美人であり、組合お墨付き(ゴールドランク)の強者である自分に、恨みを買うような行動、言動をする者がいなかっただけだ。

 もしいたら、殺していた。

 そう自分でも、自分の事を理解できているからこそ、強者で居られるのかもしれない。


「準備はいいな?」


 待たされた組合長も怒りを覚えている。もっと長ったらしい開催の言葉も考えていたが、そんなモノ、怒りで飛んでいってしまっていた。


「ええ」


 言葉で返すレキシーと眉を少し動かす事で返事としたレイン。

 レキシーはそこで漸くレインの顔を見た。正確には目を。


「始めっ!!」


 取り決めは書面で正式に交わしてある。

 余計な言葉は不要とし、いきなりの開幕であった。


 開始の合図と共に身体強化したレインが、目にも止まらぬ速さで踏み込む。

 レキシーはそれを魔法で受け止めた。


「あ、貴方…転生者なの?」

「……」


 見つめ合う二人。動揺しているレキシーは額に汗が浮かぶ。対照的にレインはいつもの涼しいが感情のみえない表情(かお)をしている。

 レキシーの動揺は、何も転生者という可能性に気付いた事だけではない。魔法が、自身をここまでの存在にしてくれた魔法が、分解されていっているからだ。


「くっ…」バッ


 タッ。


 このままでは魔法障壁を突破される。そう思ったレキシーは、爆風を魔法で作り出し、自身も巻き込まれる形で吹き飛び、距離を取った。


 レインは初めて見るタイプの魔法に驚いていた。もちろん顔にも心にも、揺らぎは一切ない程度に、だが。


「少し話がしたいわ」

「……」


 レキシーのその言葉に、レインは油断せずに周囲に視線をやった。


「なるほどね。わかったわ。少し待って」

「………」


 レキシーはレインの気持ちを汲み、レインはレキシーのする事に注視する。


「魔力障壁で私達を囲んだから、声は漏れないわ。わかるでしょう?」

「…ゎかる」


 レインは外部の魔力に干渉する事が出来る。その為、広範囲に違和感を感じ、それが障壁だとはわからないが、一応の納得はみせた。


「貴方、転生者なんでしょ?」

「なぜ?」


 レインは言葉少なだ。それでも気にする事はなく、レキシーは続ける。


「髪と目よ。転生者はグレー系の髪色をしていて、目は深い闇の色をしている。これは私が調べた事よ。ちなみにグレー系って言ったけど、正確には白と黒の間の色をしているから黒と白もあるわ」


「…なるほど。で?」


 知識は与えられた。その感謝をなるほどで済ませはしたが、これは大きな進歩なのかもしれない。

 俺が転生者だったらなに?と、レインは先を促した。


「私もなの」

「えっ?」


 驚き。これ程の驚きは上位者との遭遇以来であった。

 そして心の声が漏れたのは、今世では初めてのこと。


(これ)はコンタクトなの。度も入っていない単純なガラスなだけ。髪は地毛よ?綺麗でしょ?」

「………」


 コンタクト。その言葉をこの世界で聞く事になるとは。

 そして、その後の発言には文字通り言葉を失くした。


「不完全…魂」

「女性が聞いているのだから嘘でも綺麗だと言うべきよ?

 まぁいいわ。

 そうよ。私も不完全らしいわ。ま。今となっては理解も出来るし、逆に転生して良かったと思っているけどね」


 レインは驚いた。しかし、驚きと共に恐怖がその身を包み始めていた。

 前世では虐げられていた。この世界の奴隷が生ぬるいと思えるくらいには。

 その記憶が沸々と蘇り、レキシーに虐められるのでは無いかと、物理的にあり得ない妄想まで思考を侵食し始める。


 カタカタカタカタカタカタカタ。


 尋常では無い震え。それを見たレキシーは理解する。

 自分とは前世で抱えてきたモノの重さが違う事を。

 いえ、奪われてきたモノの多さを。


 ザッザッ。

 ビクッ。


 近寄るレキシー。

 それに恐怖し身体を縮ませ、震えが増すレイン。

 レキシーは更に近づき、そして…


 ギュッ。


 抱きしめた。


「大丈夫。ここはあの汚い世界じゃ無いわ。ここは単純で純粋な世界。強き貴方が震えなきゃいけない世界ではないの。

 大丈夫。私もこの世界に救われたの。だから貴方もきっと大丈夫。

 大丈夫。大丈夫」


 震える雨宮少年の背中を、徳川少女は優しく摩った。

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