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第二話 雨井陽歌というヒーロー①

門前の言葉に、固まっていた二人は我を取り戻す。

「…あ、やはりこれが御使いの力なのですか?」

「その、さっきの化け物は一体…?それに御使いが守ってきた世界って」

「落ち着け二人とも」

「お二人の疑問は尽きないでしょう。吉祥寺へ戻りましょうか。お話ししたいことがたくさんありますから」

門前はくるりと背を向けるとそのまま鳥居を通り過ぎ外へ出て行った。

「二人とも、変身は解いておけ」

「え、え?どうやって?」

「心の中で言うんだ。力をお返ししますって」

修三の言葉に従い、二人は納刀すると目を瞑り心の中で念じる。

すると体を光が包み込み、変身前の姿に戻っていた。

「す、すげぇ…」

「なんだかワクワクしてくるね!」

「テンション上がるよな最初は」

「はい!………ん?あ!?」

幸樹が突如絶叫し、体を戦慄かせた。

「どうしたの?」

「こ、壊れてる…」

「え?」

「剣が…ヨウから貰った…」

幸樹は手元に持っていたボロボロになった剣を掲げる。

「剣……あ!?わ、私のも壊れてる…そんなぁ」

陽歌も幸樹同様手元にあったボロボロの剣を眺め意気消沈した。

「二人揃って壊れるなんて…ついてねぇ」

「いや、それは偶然じゃない」

「え?」

「どういうことですか?」

修三の言葉に二人は目を丸くする。

「それも含め、門前様が説明してくださる」

修三は変身を解くと鳥居の方へ歩き出した。

「さぁ、行こう」

「「はい!」」


 吉祥寺は吉祥会が所有する寺院であり、吉祥会の本部でもある。吉祥寺に所属する僧侶達はその多くが家庭を持っており、その家族も伴って居住しているため他の寺院と比較してかなり独特の人員構成になっていた。

廊下を歩けば当然のように幼い男児女児が走り回る姿が見え、厨房では僧侶の妻や母親達が食事の準備をし、経蔵の隣には一般的な図書を扱う書蔵といった建物まで建築されていた。

吉祥寺に着いた三人は大門をくぐりぬけ、本堂へと至る。

本尊の前では門前が座し静かに祈りを捧げていた。

「門前様、只今帰還しました」

「お疲れ様です」

修三に声を掛けられ、門前は立ち上がり三人の方へ振り返った。

「お二人とも、まずは御使いの儀が成功されたこと大変喜ばしく思います。おめでとうございます」

「「ありがとうございます」」

「それでは、早速御使いに関してのご説明をしなければなりませんが…修三さんは?ご同席されますか?」

「は、私は…」

修三は二人を一瞥した後再び門前へと視線を戻す。

「私は先ほどの霊滓について報告に」

「そうですか。修三さん、ありがとうございました」

「いえ。では、私はこれで」

修三は門前に一礼すると、二人の横を歩き去っていく。

「頑張れよ」

「え?」

去り際に修三は幸樹の肩に手を置き呟いた。

(何を?)

「さて、まずは先ほどの黒い化け物…霊滓についてお話いたしましょう」

「れい…し?」

二人揃って首を傾げる。

「あれらはいわば昇華が叶わなかった魂達の集合体…輪廻転生の理を外れた穢れなのです。一体のみなら大した影響もありませんが、あれらが吹き溜まるといずれ大いなる災いが引き起こされてしまいます」

「災いって…一体どのような?」

「細かな事例を挙げていけばキリがありませんが…宝永噴火は習いましたか?」

「確か1707年に起きた富士山の噴火ですよね?」

陽歌の解答に門前は頷く。

「江戸時代中期に富士山が噴火し、断続的に二週間に亘って噴火は続いたとされます。明確な死者数は不明ですが、長期間に及ぶ降灰の影響で作物が作れなくなり深刻な食糧難をもたらしました」

「まさか、それが」

「はい、霊滓が引き起こしたものです」

二人は門前の言葉に目を見開き、その場には緊張感が走る。

「御使いのお役目とは、あれら霊滓を祓い本来あるべき輪廻の道へお戻しすることなのです」

「そ、そんな…ことを…」

「御使いは神々の力をお借りして、本来なら干渉することの出来ない存在に干渉する力を得ます。しかし、神聖なる御力を無償で得ようとするのはあまりに過ぎたる行為。それ故に、神々への献上品を用意する必要があります」

「あ!もしかして、私たちの剣が壊れたのって…」

「はい、神々への献上品として捧げられたからです」

門前は滔々と、話し続ける。

「このお役目は既に千年以上続いていますが、多くの御使いが命を賭し霊滓を祓い続け今日に至るまで人々を守り続けてきました」

「な、千年以上も続いているのですか!?」

「陽歌さん、雨井家も脈々と続く御使いの一族なのですよ?」

「そう、だったんですか…。私の家が名家だった理由って」

「じゃあ私の父は霊滓との戦闘で命を落としたということですか?」

幸樹は険しい顔つきで門前に問う。門前は重々しく口を開いた。

「はい」

「……そうですか」

幸樹は目を伏せ、父の死に思いを馳せる。

「こうちゃん」

「大丈夫。それで私達は父や修さ…修三さんのように今後は御使いのお役目を担っていくということでしょうか?」

「いいえ」

「え!?で、では私はこれからどうすれば──」

門前は首を振る。その回答に幸樹は思わず語気を荒げるも、門前は変わらず穏やかに話を続けた。

「貴方たちは霊滓との戦いに身を投じるには体も心も幼い。それに、世の中を知りません」

「それと、お役目に何の関係が…」

陽歌の疑問にも、門前は穏やかに回答する。

「言ったでしょう?霊滓とは、人の魂…穢れに堕ちた心の集合体です。戦う相手はあくまで人であり、心なのですよ」

門前は一旦言葉を区切り、満面の笑みで二人に告げた。

「お二人には吉祥寺で引き続き十分な勉強と修行を行っていただいた後、世の人々に触れあっていただきます」

門前の言葉の意味を理解するまで二人はしばらく停止。そして、理解した瞬間──

「「……え?」」

呆けた二人を、門前は変わらず穏やかな笑みで見つめた。

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