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 その日、帝都は一日中曇っていた。

 降りそうで降らないその空模様はまるで何かをギリギリのとことで堪えているかのようだ。


 海軍軍令部に勤めるとある士官は今まで見たことのない男が総長の執務室へと入っていくのを目撃した。

 総長に直接呼び出されるほどの地位でありながらこれまで見たことのないその姿に対して警戒心を持ったその男は後を付けようとする。

 その瞬間男の思考に空白が生じた。そしてまた意識が戻ってきた時には、自分が何をしようとしていたのか分からないという様子で首を捻り、元の職務へと戻っていく。


 執務室へと入ろうとしていた不審者、もとい土御門晴賢は男が後をつけるのをやめたことを確認してから入室する。

「土御門晴賢少尉、失礼いたします」

 民間人としての振る舞いを徹底されたその少尉は姿勢や所作こそ整っているものの敬礼といった軍人らしき素振りはしない。

「ご苦労」

 だが奥に座す大将はそれらを一切咎めることなく話し始める。

「早速だが、新しい任務に就いてもらう」

 机の上に置いてあった小さなビンを手に取る。その透明なビンの中には黒い粉末が入っていた。

「これが何かわかるか」

 試すような口調で若き将校に問いかける。

「阿片、でしょうか」

「その通り。しかもかなり中毒性の高い危険なものだ」

「それが今回の任務に関係するということですか」

 総長は問いかけに対して首を縦に振る。

「君も知っているだろうが、我が国ではただでさえ阿片に対する規制が厳しい。にも関わらずここのところ、こうした違法な阿片がこの国へと入ってきている」

 明治政府は阿片の煙草などに関して初期から厳しく取り締まり、違法な使用や所持などについては重罪としていた。さらに国内に流通しているものについても管理の徹底を行うなど非常に厳しい方針を取っている。

 故にこれ程の量を運び込むのが相当困難であることはこの場の二人にとって明らかであった。

「阿片だけではない、最近多くの密輸品がこの国へと運び込まれている。()()()()()()()()()な」

 その言葉に晴賢の中で緊張が走る。その意味するところが何かを察したのだろう。

「職務を裏切った者がいるということですね」

 だが今度は首を横に振る。

「いや、それがどうも様子がおかしい。密輸品の載った船の乗組員に対して尋問を行ったが全員身に覚えが無いと証言している」

「虚偽の証言をしているのではないかと思いますが」

 その言葉に対してまたも首を横に振った総長は一枚の書類を取り出す。

 そこに記載されていたのは全員分の証言であった。

「他の陰陽師を使って自白させたが、本当に記憶にないようだ」

 晴賢は一通りその証言に目を通すが、矛盾しているように思えるところはなかった。そもそも数百人が揃いも揃って口裏を合わせることはほぼ不可能に近いことを少尉はよく分かっている。だからこそこの事件の裏に何らかの存在がいることを感じ取っていた。

「取っ掛かりを得ることすら難しいですね」

 それは少尉にとって正直な感想であった。

 しかし、ここまで情報が限られているにも関わらず総長は諦めたようには見えない。

「確かに乗組員たちからは情報が得られなかったわけだが、一つだけ重要な手掛かりとなりうるものがある」

 総長はそこで一拍置き、ゆっくりと確実に伝わるように語った。

「密輸に使われた船舶は全て上海、あるいはその周辺に寄港していたという点だ」

 

 上海。中国の経済の中心であり、明治から列強の資本の集中する重要港にして魔都とすら呼ばれる都市。当然そこには様々な思惑が蠢いている。

「知っての通り、上海は魔境だ。列強の権益と中華民国の権利が複雑に絡みあっているあの場所で表立って動くことはできん」

「だから私を派遣するというわけですか」

「ああ。だが君とは言え十分に注意しろ。あの街は裏社会の連中が牛耳っている側面がある。つまりそれだけ魔術師や呪術師が活動しやすい環境にあるということだ。さらには最近、軍閥の連中までも付近で動きを見せている」

 当時の中国は軍閥時代と言われる内戦状態にあった。それ故に内政面では不安定であり、治安が良いとはお世辞にも言えない状況であった。

「近々、台湾からの帰路で上海に寄港する予定の駆逐艦がある。君には先に商船で上海に向かい、調査を行ってもらう。そしてその艦の出港までに犯人を確保しろ。あくまで確保だ、殺すな。」

「了解いたしました」

「それと今回は助手を付ける。外地での任務だ、人手があって困ることはあるまい。加えてお前と同じ優秀な陰陽師だ。必ず役に立つ」

「それは期待できそうですね」

 少しばかり意地の悪い笑みを浮かべながら答えたその少尉は執務室を後にする。


 三日後、横浜の港から旅立つ客船に一組の夫婦が乗っていた。裕福そうな身なりのその二人が軍の人間だと見抜ける人物はほとんどいないだろう。

 片方は顔を変え、名前も職業も偽っている土御門晴賢である。そしてその隣に立つ女性こそ今回の助手であり晴賢の実の従妹である景子であった。

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