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なにげない一幕

作者: なにげなく

電車の中。


高校生になった僕が2番目に嫌いな場所。


なぜなら、中学生時代の僕を、知ってる人に出会ってしまうかも知れない場所だから。


中学生の頃の僕はとてつもなく暗かった。明るいグループと話すどころか、暗いグループにすら入れないほどだった。


いじめられていた訳ではないけど、楽しい事も何もなかった。そんな灰色な日常。


それを変えようと僕は、高校入学に合わせキャラや服装を変えてみた。所謂高校デビューというやつだ。


初めは上手くいっていた。普通に話をして、友達とまではいかないが、クラスメイトとも交流出来るようになった。


ただ通学の為に電車を使う時、中学生時代の僕を知ってる人に出会うのが怖かった。


今の自分を見られたら、高校デビューしたんだとバカにされそうで怖かった。笑われるのではないか、噂されるのではないか、下手をするとクラスメイト達に知られるのではないかと。


昔の僕の姿を知ったら、今のクラスメイト達にもバカにされそうで不安で仕方なかった。


電車の中ではあまり顔をあげず、スマホを見るように下を向いている事が多かった。


そのせいか学校でも下を向いてしまうことが度々あった。そして運悪く廊下で人にぶつかってしまった。前を向いてなかった訳ではないけど少し目線が下になってしまい、肩に少し触れてしまったみたいだった。


「あっ!ごめんなさい!」


 すぐに僕は謝ったけれど。相手が悪かった。その人は同級生の中では有名なヤバい人だった。


勉強はそこそこで、先生に目をつけられるような事はしないけど、裏ではいじめやカツアゲは平気でやるような人らしい。


そして、そんな人にぶつかった僕はすぐにいじめの対象になった。


クラスメイトからは同情はされるが、助けてはくれなかった。下手に先生にいったり、助けたりして自分が標的になるのが怖いようだった。


そりゃそうか、とも思った。友達という訳ではなく。ただのクラスメイトに対してそこまでのリスクを背負う人はあまりいないだろうと。僕も逆の立場ならそうしていただろうから。


そんな日が続いたある日、イジメてくるヤバい人からある命令をされた。


「お前の中学時代のクラスメイトを連れて来い。1週間以内に連れて来れなきゃいつもの3倍殴る」


その言葉を聞いて僕は死んでしまうと思った。ただでもこの人の暴力はヤバい、加減を知らないのだ。普通人を殴る時無意識か意識的かは別として加減はすると思う。


でもこの人にはそれがない。嬉々として人を殴っている。この人のまわりにいる人達も同じような人種だった。だいたいは4〜5人くらいで集まって、イジメをするかカツアゲをするかそんな人達。


この人達にいつもの3倍殴られたら僕は...。

それからは電車に乗っている時に2つの恐怖を感じる事になった。


1つ目はクラスメイトにみつかる恐怖。

2つ目はクラスメイトをみつけてしまう恐怖。


どちらも同じだがどちらも結末は同じだった。


クラスメイトに会ったらあの人に会わさないといけない。でないと僕が死ぬ。


そんな精神状態で電車に乗っている中、ふと目線を感じそちらを見ると。


(いた!?)


中学生時代のクラスメイトの男子だった。割と明るいタイプで誰とでも話す人だった気がする。この人の記憶は僕にもあった。卒業式の日クラスの中で唯一話し掛けてきてくれた人だったからだ。


あの時はこんな時だけ話し掛けられてもなと、凄くネガティブな感情もあったが、やっぱり少し嬉しかった思い出がある。


(よりによってこの人か)


後ろめたい気持ちになりながらも僕は元クラスメイトに声をかけた。


少し目があったからか僕が声を掛けても彼は驚いた様子はなく、普通に挨拶をしてきた。


「だいぶ久しぶりかな?○○くん。元気してた?」


「!?」


まさか名前を覚えられてるとは思わなかった僕は、一瞬言葉に詰まってしまう。でもこれなら僕に着いて来てくれるかも知れない。


「僕は元気だよ...。○○くん。久しぶりだね?」


彼は、今でも僕の事をクラスメイトと思っているかのように笑顔で話す。


「そうか!それはよかった!で?どうしたんだ?何か言いたい事あるんだろ?」


彼は僕が何か言いたくて話掛けたと気づいているようだった。


「実はちょっと一緒に来て欲しい所があって...」


普通なら、いきなり仲良くもない元クラスメイトに、声を掛けられても着いてきてくれるはずがない。

でも今の僕にはもう時間がない!彼でダメならもう...。


「いいよ!どこに行くんだ?」


この人はなんで僕何かの誘いに乗ってくれるんだ!?

自分で誘っておいて何だけど絶対無理だと思っていたのに。


「えっと次の駅で降りてくれる?僕の友達に会って欲しいんだ!」


僕はすぐさまあの人達に連絡をいれた。


「○○くんの友達?そっか何か会わせたい理由があるんだね?」


彼は何かを確かめるように僕の方を見ていう。


「そうなんだ。ちょっと友達が君に会いたいって言うからさ!」


僕は自分でも不自然だと思う理由で彼を誘う。


「そっかそっか!いいよ!一緒に行こう!」


それでも彼は僕に着いてきてくれるみたいだ。なんでだろう?どう考えてもおかしいのに。彼は笑顔で僕に話かけてくる。


「○○くんと会うの久しぶりだし、○○くんの友達と会うの楽しみだな!」


彼は分かっているのか、分かっていないのか。いやおかしいとは思っているはずだ。でも来てくれるという。何故?


そうこうしている内に目的の駅に到着した。


「ここの駅で降りよう!」


彼と共に駅を降り、目的地に向かう。


連絡はすでに送ってあるので、あの人達は何人か集めてもう目的地で待っているはずだ。


「この駅降りるの初めてだなー。○○くんはちょくちょく来るの?」


彼は特に何か気にする様子もなく、僕に話かける。


「僕もそんなには来ないんだけど、友達と...一緒にたまに寄るんだ」


少し言葉に詰まりつつも何とか自然に受け答えをする。

僕の答えを聞いた彼は少し僕の顔を見て、何事もなかったかのように着いてくる。


駅から少し離れた所にある公園まで、ポツリポツリと会話を続けながら歩き、やっと到着した。


いつも以上に長く感じる道のりだった。今から始まる事への申し訳なさや、罪悪感、自分がされて苦しかった事を他人に押しつける事への罪の気持ちが歩く度にのしかかる。


でもあの人達の暴力をこれ以上受けたら僕は...。


罪悪感より恐怖心が勝ってしまう。


「おー、連れてきたかー。じゃあお前もこっちこいよ」


あの人達の待つ公園に到着しすぐに声をかけられた。今日は5人程で集まっているみたいだ。僕は呼ばれるがまま、あの人の近くに走っていく。


「ちゃんとオモチャを連れてきたなー?よしよし!3倍はこれで勘弁してやるよ!」


震えながらもそのセリフに安堵する。


「1人連れてきたから3倍の半分にしといてやるよー」


僕は絶望した顔で顔をあげる。


「でも今日はいつもより俺らのツレが1人多いから、結局2倍位やっちゃうかもしれねぇけどなー!!!」


満面の笑みで俺の絶望する顔を眺めている。5人共にニヤニヤと嬲るかのような視線が突き刺さる。


「ちゃんと元クラスメイトにも俺たちの事紹介してあげろよ?今から仲良くボコボコにされるんだからよ〜?」


僕はガタガタ震えながら彼の方を向く。


彼は以外にも落ち着いた様子でこちらをみていた。


「もういいかな?俺今から○○くんの友達に会いに行かなくちゃいけないんだけど?お前らみたいな気持ち悪い顔した奴らに時間とられたくないからさ」


ヤバいヤバいヤバい!彼はこの人達のヤバさをしらない!あんな事言ったら絶対殺される!!僕は恐る恐る顔を伺った。


「お前の元クラスメイト、マジ調子に乗ってんな?あ?アイツマジでブチ殺すぞ?」


めっちゃキレてる!やっぱりめちゃくちゃキレてる!!少し肩当たっただけであれだけのイジメをするヤバい奴らだ煽ったりなんかしたらブチギレるに決まってる!!


「マジマジうるせぇよ?男5人でたむろしてイジメする事しか出来ないクソ共が俺にケンカ売って来てんじゃねぇよ!」


えー!?めっちゃ口悪くなってる!!!

え?○○くん、そんなキャラだったっけ?


「俺イジメとか道理外れた事するヤツ嫌いなんだよ。お前らの方こそ殺すぞ?」


あっそういえば○○くん、学校では誰にでも声かける明るい人だったけど、何回か先生に謎の呼び出し食らってたっけ?

あれそういう事なのかな?


「お前とお前の元クラスメイト、死刑決定な?」


なっなんで僕まで!?

5人共顔がマジだ...何人かバットまで持ち出してる!!


「まぁまずあのクソ生意気なガキからぶち殺してくるから、

お前はその後な?」


血走った目で僕を睨んで5人は彼に向かって歩いて行く。


「ガキってなー?てめぇら年変わらねぇだろうよ?武器まで持ち出してダセェ奴ら」


彼はそれでも何ともないように5人を煽る。

彼の身長は175cm位だろうか?体型はスポーツをしてるのか引き締まっていそうだが、体格がゴツい訳でもないし。

5人組もそう変わらない体型をしている。しかも5人の内2人はバットを持っているし、5対1では絶対勝てない!


「あーあー。口だけのヒーロー気取りのクソが!俺らを一丁前に煽ってきやがって!マジでイラついたから俺らのイライラ収まるまで帰れると思うなよ?」


5人はニヤニヤと笑いながら彼に近づいていき...そして。


「何とか言ってみろや!」


バットを持った1人が彼の頭目掛けバットを振りかぶった!


「イラついてんのはこっちだクソ野郎が!!!」


彼は素早く振りかぶった懐に潜り込み右肘で鳩尾に打撃を加える。息が詰まった男がバットから手を離し、腹を押さえようとした蹲った所に更に返しの左肘で顎を打ち抜いた。男はそのまま気絶し動かなくなった。

そして彼はおもむろにバットを拾い。


「オラ!かかってこいやクソ共が」


僕も他の4人も今の一瞬で起こった格闘が頭から離れなくなっていた。


あまりに速すぎる。動きもだけど攻撃の動作の繋げ方が凄くスムーズでバットの男が振りかぶったと思ったら倒れてた。


他の4人も後ずさるかのように彼から距離をとる。


「あん?さっきまでの威勢はどうしたよ?もうビビってんのか?」


それよりさっきから彼のキャラが怖い...。

後で僕も殺されそうで色んな意味でビクビクする。


「こっちのがまだ数が多いんだ!同時に殴りかかりゃどうとでもなる!」


確かにまだ4人もいるし、その中にバットを持った奴も1人いる。さっきのは正直この人たちが舐めていたから出来た奇襲みたいなもの。同時に殴り掛かられたら流石に危険だ。


「おうおう!同時にかかってきてくれるのかよ?そりゃ手間が省けて嬉しいね!!」


4人の内2人が左右から同時に殴りかかった!しかもその内の1人はバットでフルスイングする気で襲いかかっている!


それをみて彼は、バットを振りかぶってる男に対し、手持ちのバットで顔面を素早く突いた。

踏み込みと突きの速さが尋常ではない。左右の2人が動き始めた頃にはもう、踏み込みと突きの姿勢が完了していた。


顔面の鼻を的確に潰された男は鼻血を出し泣きながら蹲る。

それを見ることなく踏み込みによりもう1人と開いた間合いを利用し返すバットを横にスイングした。

そのスイングが殴りかかって来ていたもう1人の左腕に直撃し鈍い音がする。ガードしたは良いものの、スイングしたバットを腕で受けたせいで折れてしまったようだ。

殴りかかっていった男も蹲ってしまい左腕を抱え泣き崩れる。


「あーあー2人とも泣いちゃって、泣くくらいなら最初からこんな事してんじゃねぇよ!ダセェな!」


ここまできたら偶然じゃない。彼は強い。しかも凄く。


「こっこいつ何なんだよ!?お前!!何連れてきやがった!?俺らの事はめやがったな!?」


突然こっちに振り返ると同時に凄い剣幕で詰めよってくる。


「アイツに今すぐ止めるようにいえ!じゃねぇと学校で分かってるよな?」


そうだ...。ここで彼がこいつらに勝っても僕の学校でのイジメが更に辛くなるだけだ。

でも僕に彼を止める力なんてないし、僕も騙して連れてきたって意味では彼の敵だ。言うことを聞いてくれるとは思えない。


「ごめん...。僕も嘘を着いてここに彼を連れてきていて。しかも元クラスメイトだけど仲が良かった訳でもないから。止めろと言われても無理なんだ...」


そう...。僕は彼を騙して連れてきているだけ。仲が良かった訳でもなければ。話したことすらあの卒業式の日しかない。


「だから僕も彼に殴られる側の人間なんだ!!」


僕みたいな奴に着いて来てくれただけでも奇跡で、顔を覚えていてくれて、名前まで覚えていてくれて、そんな彼を僕は...。


「だから僕に彼を止める資格なんてないんだ!!」


本当にごめんなさい。


「こいつ!!マジで使えねぇなー!!後でぜってぇぐちゃぐちゃにしてやるからな!!」


これで僕の高校生活は終わる。いや下手すると命すら危ういかもしれない。でも仕方ない。人を犠牲にしようとした僕にはお似合いの最後かもしれない。


「てめぇらに後とかねぇんだよ、クソ野郎が」


気が着くともう1人の男は右腕を抱えて蹲っていた。


「後はてめぇだけだ、何か俺に言いたい事あるか?」


ゆっくりと歩きながら彼は問う。


「おっ、お前が俺らにここで何をしようと学校でコイツがイジメられるのは変わらねぇんだよ!残念だったな〜!ヒーローごっこを精々今だけ楽しめばいい!」


彼は別に僕を助けたかった訳ではないだろう。ただ自分にケンカを売って来たから買ったにすぎない。僕なんかの為にケンカをするはずがない。


「ヒーローごっこねぇ?俺はヒーロー何かじゃねぇよ、ただな」


彼は怒っていた。


「目の前でイジメられてるやつがいたら、助けるのが当たり前ってだけだ」


彼はバットを捨て。男の胸ぐらを掴む。


「俺は俺のカッコイイと思う事をする。イジメをなくす?ヒーロー気取り?そんな大層なことをするつもりはねぇ!」


そして拳を振りかぶり。


「俺はな!いつだって顔上げて歩いて行けるように!自分に胸張って歩いて行けるようにするだけだ!」


思い切り拳を振り抜いた。

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