第47話:更なる力(Side:ナメリック①)
「おい! 話が違うじゃねえかよ! お前のせいで俺様は恥をかいたんだぞ!」」
俺様は鏡に向かって怒鳴り散らしていた。
ここはギルドで一番大きな部屋だ。
俺様専用の部屋で連日女が入り浸っていたが、今は誰もいない。
『まぁ、そう焦るな』
鏡の中には魔族が映っている。
ある日突然現れたのだ。
それもそこら辺のザコではない。
超大物の魔族だった。
本来ならば、俺様たち冒険者が力を合わせて倒すべき相手だ。
しかし、俺様はライブリーにさえこの状況を伝えていない。
とある取引をしているからだ。
『クックックッ、ずいぶんと無様な負け方をしたではないか』
「うるせえ! お前の渡したアイテムがお粗末だったからだろ! 簡単に折れるような武器を渡してんじゃねえ! 何が魔族アイテムだ! ふざけんな!」
<魔剣・アスモディアンソード>を床に叩きつけた。
今や特別そうなオーラも消え、ただのゴミだ。
『しかし、ずいぶんとレイク・アスカーブにはコケにされていたな。油断するなとあんなに注意していたろうに。心の底では舐めていたんだろ?』
「っ……るせえな! あれはたまたまだ! たまたまあいつの攻撃が上手く当たっちまったんだよ!」
別に魔族などと手を結んでも、何の問題もない。
無論、俺様の方が強いと確信しているからだ。
力を得たら、こんなヤツらとはおさらばだ。
仮に俺と戦闘になっても返り討ちにしてやる。
前に魔族と戦ったことがあるが、楽勝で倒せたからな。
『技術を結集して造った非常に貴重なアイテムだと言うのに、こんなにしおって……貴様は剣術が得意と聞いていたが、ウソだったようだな』
「ぐっ……!」
今は辺境にあるギルドのエースで甘んじているが、俺様はこんなところで終わる人間ではない。
俺様は世界に選ばれた人間なんだ。
富も名声も女も力も全て俺の物だ。
「そんなことより、俺様に魔族の力を与えるって言ったよなぁ!? さっさと力をよこせ!」
俺様はもっと強くなって、この世界を支配してやる。
手始めにクーデターでも起こすか。
王都に攻め込んで、国王の座を奪ってやる。
一瞬、あのザコ虫の顔が思い浮かんだ。
今やっていることは、人間側に反旗を翻す行為だ。
最近、魔族の動きが慌ただしくなっていると聞く。
だが、アイツの顔を思い出した途端、怒りがフツフツと出てきた。
――俺様をバカにしやがって!
『……では仕方ない。まだ渡すには早いかもしれないが、貴様に特別なアイテムを与えてやる』
「もったいぶらずに早くよこせよ」
『ほら、これだ』
鏡から小さなビンが出てきた。
ポーションを入れるような入れ物だ。
だが、明らかにアイテムとしての次元が違う。
これも<魔剣・アスモディアンソード>と同じ禍々しいオーラが出ていた。
<魔族のポーション>
ランク:S
能力:身体能力を15倍にする
「す、すげえ! 身体能力が15倍だって!? なんてアイテムだ!」
『これは私が長年をかけて作った、至高のアイテムだ。普通なら人間にくれてやることなどありえないが、お前は特別だ。これを飲んでレイク・アスカーブを倒せ』
単純に考えて、今より15倍も力が強くなるし動きも早くなるってことだ。
――つまり……俺は最強になれる。
「ハハッ……ハハハハハ!」
俺は笑いが止まらなかった。
こんなに高倍率の増強ポーションは、今まで見たことがない。
能力向上のアイテム自体Sランクの中でもかなり珍しい。
これだけで国一つは買えるだろうな。
『人間界では二つとないアイテムだ。もう一度言うが、お前は選ばれし人間なのだ』
選ばれし者と言われ、めちゃくちゃ気分が良くなった。
魔族に言われるなんて、やっぱり俺様はすごい人間なんだな。
『まぁ、代償として飲んだ者は魔族になるのだが……』
「ああ? なにブツブツ言ってんだよ」
こいつはよくわからないことを言っていたが、よく聞こえんので無視した。
さっそく、ポーションを飲む。
――これさえ飲めば俺は……。
「がっ……はっ! なんてまずさだ!」
しかし、ポーションはとんでもなくまずかった。
おまけに、卵が腐ったような悪臭がして鼻がもげそうだ。
『どうした、力を手に入れるんじゃないのか?』
「う、うるせえ! こんな物飲めるわけないだろうが! からかってんじゃねえぞ!」
『わかった。では、回収しよう』
<魔族のポーション>は、すううう……と消えていく……。
「ちょ、ちょっと待てよ! 誰も要らないとは言っていないだろうがよ!」
慌ててポーションを掴むと、元通りになった。
一安心してホッとする。
『ほら、文句を言わずに飲め』
「わかってるよ!」
呼吸を止めて一気に飲み干した。
「うぐっ……!」
その瞬間、体が燃えるように熱くなった。
内臓が茹でられているみたいだ。
「がっ……はっ……!」
『ハハハハハ! 全て飲まないと効果は得られないぞ』
思わず吐きそうになったが、無理矢理飲み込んだ。
一滴も残さないように、ビンの中まで舐めまわす。
これだけ飲めば十分だろう。
「ぐあああああっ!」
その直後、全身が体験したことのない痛みに襲われる。
まるで、体中の骨がグシャグシャになって、また新しい形を作っているかのようだ。
「て、てめえ! 何を飲ませやがった!」
『耐えろ。そのうち消えていく』
頭が割れるように痛み、喉が焼けるようにヒリつき、目がチカチカする。
――ちくしょう! どうなってやがる!
耐えていると、こいつの言う通り少しずつ痛みはひいていった。
その代わり、魔力がみなぎってくるのを感じる。
呼応するように、殺意まで芽生えてきた。
レイク・アスカーブの顔が思い浮かび、早く殺したい気持ちに支配される。
『ハハハ! すげえ! 体中に力が溢れてくるようだ! これでアイツをぶちのめして、世界を手に入れてやるぜ!』
――あれ? 俺様ってこんなに毛深かったっけ?
俺様の体がおかしくなっている気がした。
だが、すぐにどうでも良くなった。
色んなものを壊しまくりたい。
こんなに気持ちが高ぶっているのは久しぶりだ。
『良かったじゃないか。これでお前も俺たちの仲間だ!』
――今すぐ戦いたい。今すぐ人間どもをぶちのめしたい。今すぐギルドを破壊したい。
身体が言うことを聞かなくなり、俺様は部屋を飛び出した。
【新作を始めました!】
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本日より、ハイファンの領地経営物を始めました!
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