第44話:人形は呪われた即死アイテム(めっちゃ強かった)
〔まさか、こんな出会い方をするなんてね〕
「さすがに、空から降ってくるとは思わなかったぞ。でも、どうして空から降ってきたんだ?」
見た感じ、空に何かが浮いてそうな様子はない。
〔きっと、ダーリンに引き寄せられているのよ。【呪いの館】だって、ダーリンの近くに出てきたわけだし〕
「そんなもんなのかねぇ」
人形は左目にドクロの眼帯をつけて、右手には包帯を巻いていた。
――なかなか、センスがいいな。やっぱり、呪われた即死アイテムは素晴らしい……。
といったところで、ミウに服を引っぱられた。
〔ダーリン、冒険者の人たちが心配そうな顔をしているわ〕
「「レ、レイクさん……大丈夫ですか?」」
みんな緊張している。
中には武器を構えている人もいた。
「大丈夫です! 敵じゃないので安心してください。」
「「そ、そうなんですか……?」」
みんな不安だろうから、さっさと解呪した方がいいな。
人形の前には、件の説明書きがぼんやりと浮かんでいた。
何はともあれ、久しぶりの呪われた即死アイテムだ。
【無慈悲な殺戮人形】
ランク:SSS
能力:全生物を6秒で死滅させる戦闘力を持つ
呪い:起動した殺戮人形に処刑される
「全生物を6秒で死滅って……ヤバすぎるだろ」
〔強さはちゃんと保証されているみたいね〕
とんでもない戦闘力だ。
もしかしたら、呪い魔神のミウと同じくらいの強さかもしれない。
「この人形も《解呪》したら仲間になるのかな?」
〔たぶん〕
「よし」
となったところで、俺はある問題にぶち当たった。
――……どこを触れば、倫理的には問題ないんだ?
いくら人形と言えど、相手は若々しい乙女だ。
見境なく触るのは不健全極まりない。
胸部と下半身は論外として、腕?
いや、腕もなんかスベスベしてそうだしな。
なぜか露出も多めだし。
〔何してるの、ダーリン? 《解呪》しないの?〕
「あ、いや、ちょっと……」
俺は悩みに悩んだ末、額を触ることにした。
「か、《解呪》!」
俺は人形のおでこに、ちょこっと軽く触れる。
その瞬間、ヴヴンッ! と人形の目が開いた。
と思ったら、ガバァッ! とすごい勢いで立ち上がった。
「うおおお! なんだ、なんだ、なんだ!?」
〔ダーリン、下がって!〕
俺たちは思わず離れるが、人形はガシャン! ガシャン! ガシャン! と迫ってきた。
その顔は無表情で、とても威圧感がある。
「ま、まさか、上手く《解呪》できなかったとか!? ヤベぇよ、どうしよう! しょ、処刑されちまうのかっ……?」
〔何があっても、ダーリンは私が守るわ!〕
人形は俺たちの前に立つと、そのまま立ち止まった。
な、なんだ? 何をしてくる?
〔ウチ、クリッサ~。あなたの名前は~?〕
「〔……え?〕」
……いや、めっちゃゆるい感じで話し出したのだが。
クリッサと名乗った人形は、無表情から締まりのない笑顔になっている。
ふにゃあぁ……という効果音が似合いそうだ。
「レ、レイク・アスカーブ……です」
〔じゃあ、これからレイクっち~て呼ぶし~。つーか見ただけでマジレベチ~、テンションアゲぽよマジヤバみ~〕
れ、れべち……? あげぽ……まじ……や……なんて?
いきなり、クリッサは意味不明なことを言い出した。
〔マジ、レイクっちしか勝たんねぇ~〕
「は、はぁ……どうも」
何に加担するんだろう?
〔こっちにはかぁいぃ女の子いるし~あなたの名前はぁ~?〕
〔ミ……ミウ〕
〔ミウっち~って言うの~。マジかぁいぃねぇ~〕
マジカー・イーネ?
何を言っているのか、全くわからん……。
も、もしかして、俺がわからないだけなのか?
ミウも呪われた即死アイテムだから、全部わかってたりして。
〔アンタ、さっきから何を言っているの? 全くわからないわ〕
良かった、俺だけじゃなかったらしい。
ホッとした時、キメラモンスターの巣が騒がしくなった。
さっきの衝撃で、主が目覚めたのかもしれない。
「っと、モンスターも結構いるな」
〔まぁ、ダーリンの手にかかればすぐ討伐できるだろうけど〕
空にはBランクのレッドワイバーンや、サンダーバードがたくさん飛んでいる。
地上にはスケルトンナイトやポイズンマミーなどの、アンデット種族がうじゃうじゃいた。
極めつけはAランクのサーベルタイガー。
高ランクのヤツらがより取り見取りだ。
「クソッ、もうあんなに繁殖してやがる!」
「繁殖スピードが速すぎるぞ……!」
「ちくしょう、もうアイテムも底をついちまう!」
ワイルさんたちも慌ただしくなる。
無事、呪われた即死アイテムは解呪できたので、後は依頼を達成するだけだ。
「さてと、さっさと片付けるか」
〔またダーリンの瞬殺が見たいわ〕
〔ねぇ~ウチにやらせてよぉ~〕
【闇の魔導書】でも使おうとしたら、クリッサがまとわりついてきた。
〔こら、ダーリンから離れなさい〕
「そ、そんなにくっつくんじゃありません」
ミウが引き剥がそうとしても、クリッサは俺にベタベタくっついてくる。
意外なことに、肌触りも人間みたいだった。
きめ細かい肌は張りが素晴らしく……って不健全だぞ、レイク!
〔あれなにぃ? レイクっち~〕
「キメラモンスターの巣だよ。俺たちはあれを討伐しにきたんだ」
〔だから、離れなさいって〕
〔ウチがやる~、レイクっちもウチの実力みたいでしょぉ~〕
クリッサはこんな感じだけど、一応呪われた即死アイテムだしな。
強いのは間違いないだろうが……。
「じゃ、じゃあ、お願いしようかな」
〔わかったぁ~……【バトルモード】起動〕
「〔ん?〕」
いきなり、クリッサの雰囲気が変わった。
さっきのふにゃあぁ……とした笑みが消え、めっちゃ真顔になった。
〔あちらが処理対象で問題ございませんか、マスター?〕
クリッサはキメラモンスターの巣をピシリと指している。
ものすごく真面目なオーラがビシバシ出ていた。
「マ、マスター? 処理対象? ど、どういうこと?」
〔あなたいったいどうしたの?〕
な、なんか、急に真面目な感じで話し出したのだが。
〔私が処理して構いませんか? 許可をいただければ、すぐにでも殲滅いたします。マスターは、あのモンスターたちを討伐に来たと把握しておりますが?〕
「あ、ああ、あそこのでかくて丸いのを倒しにきたんだが……」
〔承知いたしました。索敵開始……完了。キメラモンスターの主1体、生み出されたモンスター57体確認〕
「なんか、クリッサの目がキュインキュインしてるんですけど……」
クリッサの右目は、瞳孔がせわしなく閉じたり開いたりしている。
それにしても不思議な音だ。
〔これはきっと、分析しているのよ〕
「ぶ、分析……」
〔それでは処理を開始します。よろしいでしょうか?〕
「は、はい……お願いします〕
クリッサは右手の包帯を解くと、手の平を巣にかざす。
すると、そこから小さな筒が出てきた。
なんだ、あれ? と思ったら、超高速のレーザーが次々と発射され始めた。
『『イギイイイイ! アアアアアア!』』
「うおおおお! すげえ!」
〔ふーん、なかなかやるじゃないの〕
モンスターはレーザーに当たった瞬間…………蒸発している。
空高く逃げても、追いかけて蒸発させる。
地中深く逃げても、追いかけて蒸発させる。
断末魔の叫びが響き渡る中でも、クリッサは無表情で死の光線を放ち続ける。
一瞬で全てのモンスターは蒸発した。
「お、おい……何が起きた……?」
「わ、わからん……あの娘が手をかざしたらモンスターが消えた」
「レ、レーザーみたいのが出ていなかったか? なんか眩しかったし」
みんな、ただただ呆然としている。
しかし、主は倒していなかった気がした。
「ね、ねぇ、クリッサ。主も倒したのかな?」
〔いいえ〕
〔ちょっと、それじゃ意味がないでしょうよ〕
〔後ろの方々に、倒した瞬間をお見せする必要がありますよね?〕
「〔え?〕」
クリッサはノーザンシティの冒険者たちを指さしている。
あっ、そうか。
確かに、みんなにちゃんと見てもらった方が良いよな。
と、そこで、ワイルさんたちは冷や汗をダラダラかき始めた。
「お、おい……俺たちを指さしているぞ」
「次は私たちが標的……ってこと?」
「マ……ジ……で……?」
俺たちは慌てて叫ぶ。
「いえ! 違いますから! 大丈夫です、安心してください! この人形は俺たちの仲間なんですよ!」
〔心配しないで! みんなは攻撃しないわ!〕
必死に説明していると、ワイルさんが巣を指して怒鳴った。
「お、おい、みんな見ろ!」
キメラモンスターの主がゆらりと出てきた。
小さな家くらいの大きさはありそうだ。
〔ふーん、あれがキメラモンスターなの〕
「たぶん、素体はサーベルタイガーだな」
ワイバーンっぽい翼も生えているが、形がぐちゃぐちゃなので空は飛べなそうだ。
バチバチと稲妻をまとっている。
全身は液体っぽいから、スライムも交じっているのかもしれないな。
所々ゾンビっぽく腐っていて、ブシュゥゥと呪い毒を吹き出していた。
目がバキバキに血走っていて、めちゃくちゃ機嫌が悪そうだ。
『ゴアアアアア!!!』
めっちゃ咆哮轟いてるし。
巣を荒らされて、マジギレしてるらしい。
キメラモンスターは毒の鎧をまといながら、猛スピードで突進してきた。
〔では、処理を開始します〕
「は、はい……どうぞ」
クリッサはゆっくりと右目の眼帯を外す。
『ガアアアア…………イァ゛ッ!!』
クリッサの両目から、また死の光線が放たれた。
無論、キメラモンスターは蒸発だ。
ワイルさんたちは衝撃的な光景に唖然としていた。
だが、じわじわと勝利の喜びを実感してきたようだ。
「お、お前ら見たか!? キメラモンスターが消えちまった! 俺たちは勝ったんだよ!」
「す、すげえ! あんなに苦労したモンスターが一瞬で倒せるなんて!」
「やったあああ! これでノーザンシティも安泰だ!」
ノーザンシティのみんなは、めちゃくちゃに喜んでいる。
しかし、俺とミウはつっこまずにはいられなかった。
「〔いや……両目で攻撃するんかい……〕」
〔【バトルモード】終了……通常モードに戻ります……ウチどうだったぁ~〕
途端に、クリッサがまとわりついてくる。
真面目オーラは消えふにゃふにゃだ。
〔だから、ダーリンから離れなさい〕
〔ミウっち、厳しすぎぃ~〕
ということで、新しい仲間のおかげで依頼は数秒で終わった。




